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キセキ

第3章 Vol.3〜雨の診察室

【Vol.3:Psychiatric Clinic on a Rainy Day】

診察室に、30代の男性が入ってきた。

初診の患者だ。
春の音が聞こえる季節。
今日は小雨が降っていた。
夕暮れが近い。
それほど患者の多いときではなかった。

問診票に目を通すと、
症状の欄には「その他」とあった。

「今日は、どうされましたか?」

私は聞く。見た限りは悪そうなところはなかった。
視線もしっかりしている。
身なりも清潔で、短髪、さっぱりした印象だった。

「先生に会いに来ました。」

男性の言葉に私は面食らった。

私に?

「わからないですよね。
 ボクは随分、大人になりましたから。」
「どちらかでお会いしましたか?」

もしかしたら、昔診た患者だったのだろうか?
しかし、覚えていないほど昔となるとこの患者が子供の頃、ということになる。
私はこれまで小児の診療をした経験はない。

では、患者の家族だったのだろうか?

「どなたかのご家族ですか?」

男は笑った。なんとなく、瞳が揺れている。

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