リーニエント
第4章 ジャスミン
この時間は丁度昼休みだった。
昼食を終え、教室へ戻ろうとする数人の男子グループ。
渡り廊下を歩く途中、小さな物体が飛び込んで来る。
「うわっなに!」
「またかよ、藤堂(とうどう)ー」
「莉茉(りま)?」
ローツインテールの毛先をなびかせ、ちまっとした小柄な人影が目的の前へ到着。
「きた君、どおして?どおして、りまを避けるのっ!」
「別に、避けてるつもりは無いのだけれど……」
整えられた眉尻を少し下げて、力無く笑うのは"きた"君と呼ばれた。
男子高校生の平均より、上を行くであろう長身の彼は五十嵐 北斗(いがらし ほくと)。
北斗の"北"を取り、"きた君"と親しみを込めて呼ばれる。
そこそこ勉強も出来て、運動神経も抜群。
その体格からのイメージとは反対に、柔和な人柄の良さで男女、学年問わず慕う人が多かった。
そんな彼にも弱点が有る。
眼前……より下の方。
北斗の胸部よりも下程度の身長しかない、小柄な女子。
旋毛しか見えない彼女は藤堂 莉茉(とうどう りま)。
彼の唯一と言える弱みである。
一緒にいた男子達も何時もの事だと、何処吹く風。
先に戻ると北斗に告げると、ふたりを残し校舎内へ消えて行った。
「莉茉に怒られるのやだな、俺」
大きな右掌を彼女の頭上にぽんと置く。
「あたし、怒ってないもん。きた君が避けるから、理由を聞いてるんだもんっ」
まるで兄妹の様な、微笑ましい光景。
仲睦まじい幼なじみのふたりはこう見えて、同学年であった。
「だって……恥ずかしい」
「だって、好きなんだもん」
「それ、ほんと止めて」
「きた君、大好き」
少しボリュームを上げた幼さの残る声。
彼の着ていたトレーナーの裾を引っ張る小さい手に、一層力が入る。
視線を落とせば、莉茉と瞳同士がばちりと重なってしまった。
「……えっきた、くん?」
突如、頭から熱を帯びる感覚が北斗を襲う。
視界が少しぼやけて、顔が火照ったようだ。
彼の顔を映し出した丸く大きな瞳で「顔真っ赤だよ!」と慌てる莉茉。
彼女の取り乱す様子に、誰の所為だと苦笑をもらす。
「お前ら、またやってんの?」
何処からか呆れるような、冷めた声が響いた。
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