リーニエント
第5章 サンビタリア
「ひどいよね、お兄ちゃんてば」
そう言うとグラスに注がれた、オレンジジュースをコクリと口に含んだ。
「そりゃあ、恋人優先大事っしょ。こっちも突然、転がり込んだようなもんだし」
甘ったるいジュースを飲む少女を横目に、蛇澤 桧瀧(へびさわ ひたき)は本日二回目となる缶ビールのタブを開けた。
この日、桧瀧は出先の仕事だった。
空き時間、友人からのL●NEへ向けて家の近くに来ている旨を送れば「俺ん家で晩飯食ってく?」と返ってきた。
返信相手は、土岐代 寿志(ときしろ ひさし)。
桧瀧が大学を中退した後も、何かと世話を焼いてくれた気の良い先輩。
直帰だからと二つ返事で訪れれば、迎えたのは妹菊乃(きくの)だった。
「お兄ちゃん、彼女さんとも約束してたらしくって……」
「ははっあの人らしー」
兄から頼まれているからと、桧瀧を家の中へ引き入れる。
スマホにも「ゴメン」のスタンプと、「妹と食事してやってほしい」との一文。
土岐代家は親代わりの兄と、まだ高校生になったばかりの妹の二人暮らしだ。
桧瀧も何度か寿志に誘われ、菊乃とも馴染みとなっていた。
「でもさ桧瀧、優し過ぎない?」
「えー、俺って優しいの?誉めても何もないけどー」
「あはははっ」
桧瀧が腰掛けるリビングソファの傍らに座ると、笑いながらバシバシと肩を叩いてくる。
全く色気の欠片もない、友人の妹。
彼にとって菊乃はその程度の認識だった。
どうせ兄の支払いだからと、テーブルに並ぶのはフードデリバリーの数々。
それらを食べ終え、まったり寛いでいた中での会話だった。
菊乃はジュースをちびちびと飲み、桧瀧は持参したビールを仰ぐ。
カツとグラスに当たる、小さな金属音。
菊乃は音の方を見て、ぽつりと一言。
「そのピアス、痛くない……?」
下唇のに光る銀色、所謂リップピアスを指し不安そうに訪ねる。
「んー、空けた時はまあ痛かったけど」
慣れればさほど支障がないと、説明した。
「前に、舌切るとか?言ってたよね……?」
「ああ、切ってはないけど……ほれ」
「きゃっ」
べーと舌を出せば短い悲鳴を上げ、両手で顔を覆った。
「ね、見てみ。可愛くない?」
おどけるようにして見せると、「どうなってるの……えっ貫通?」とまじまじ見つめる。
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