リーニエント
第7章 アガパンサス
『私とうっちー?友達よ』
蘭子は確かにそう言っていた。
けれど……と、みやのは顔を曇らせる。
それは、彼と蘭子に纏わる噂を耳にしてしまったからだ。
「蘭子さん……」
「蘭子が、何?」
「う、う、内影君!」
振り向くと、立っていたのはつい先刻までみやのの思考を占領していた本人だった。
「うん。今日も一緒、帰るよね?」
内影 清里(うちかげ きより)は、みやのに脱力した笑顔を向けた。
「あ……うん」
内影の問いかけに返事をする彼女、斉家(さいけ) みやのとはクラスメイト。
この春進級した時に初めて同じクラスとなったこの二人は、のんびりした波長がとても合う様子。
部活に入らない数少ない帰宅組で帰りの電車が同じだからと、最近では一緒に帰る仲になっていた。
放課後の教室内は皆既に出払っていて、残されたのはみやのと内影のみ。
「昼休みから気になってたんだけど……みゃーの、何で目を逸らすの?」
[みゃーの]とは友達間で呼ばれているみやのの愛称である。
響きが可愛いと、彼も便乗して呼ぶようになっていた。
「何でって、えと……」
「みゃーの?」
言いかけて、再び唇を噛み締める。
彼女のぷっくりとした肉厚の下唇が、微かに震える様子を盗み見ていた内影は口を開く。
「そっか、解った」
「あっ……きゃあ」
「なんて、言うと思った?」
みやのの脇下に手を差し入れ、身体を持ち上げる。
抵抗する間も与えない素早さで後ろの机へ座らせた。彼女の小柄な身体は見た目通り軽かったと、内影は口元を綻ばせる。
「内影君?」
「みゃーの、俺を見て答えて」
「え、見て……るよ」
「目だよ。俺の目、見てよ」
癖毛気味の黒髪から覗く瞳がみやのの大きな瞳を映す。
やはり直視出来ない彼女は、内影の左目の下にある泣き黒子へ目線を置いた。
「……」
「ねえ、こっち」
痺れを切らした彼は彼女の両頬に手を添え、自身へ向ける。
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