
リニエンアナザー
第1章 クロタネソウ
「やめ、……っんう」
千種の大きな瞳が捉えたのは、瞼を下ろした黒谷の顔だった。
短めの髪は思わず触りたくなるような、柔らかな毛質。手を伸ばそうとしたその時、右手を絡みとられてしまう。
「んんっ」
腰を引き寄せられ、僅かに爪先立ちになる不安定な足元。
「は……っ、覚悟、してね」
そう耳許で低く囁く黒谷は、繋いだままだった右手を千種の唇へ持っていく。
つと指の甲で唇を辿る。余韻を残す触れ方だった。
びくりと過剰に跳ね上がる身体を誤魔化すように、膨れっ面になった千種。
耳には少し勢いが引いた雨音がする。
このまま彼の拘束を振り払って、逃げる?
目元を赤く染め、そわそわと落ち着かない千種。
そんな思考を読まれたのか、黒谷が握っている手に力がこもった。
「返事、待ってるから」
熱の絡むトーンだった。
きつく結んだ千種の唇が微かに震える。
とろりと目許を細める黒谷に魅了されて、思考と身体がフリーズしてしまう。
困惑の霧の中へ落とされることとなるが、潤んだ瞳で彼を睨み付けた。
→Lienient Chapter 9

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