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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第1章 柳家の娘

 だが、春泉は咄嗟に彼女の腕を掴もうとした男の手を振り払った。男のもう片方の腕は、既に春泉の腰に添えられ、彼女を危なげのない手つきで支えている。
「無礼者、その汚れた手で私に触るな」
「おいおい、流石にそれはねえんじゃないのか? 仮にも恩人に向かって、無礼者とか穢れた手という言い方は失礼だとは思わないのか?」
「賤しい者が私に対等な物の言い方をするのか!?」
 語気荒く言ってはみたものの、春泉は両班の娘というわけではないのだ。父がいかほど富める身であろうと、所詮は商人の娘、常民にすぎず、また相手も貧しくとも同じ常民である。
 が、春泉は屋敷であまたの使用人にかしずかれ、横柄な物言いは日常のものとなっている。この場合も、考えるより先に言葉が出てしまった感があった。
 そして、その自分の態度が相手に鼻持ちならない権高な女だという印象を与えてしまったことに、すぐに気づいた。
「フン、醜女」
 毒づかれた春泉は一瞬、虚を突かれたようにポカンと男を見つめた。
 束の間の空白の後、パシンという小さな小気味よい音が響き渡る。
「お、お前っ。今、私に向かって何と言った?」
「醜女、そう思ったままを言ってやった」
 相手は悪びれもせず、しれっと言ってのける。それがまた余計に春泉の癇を立てた。
 春泉に右頬を打たれても、いっかな腹を立てる様子もなく、相変わらず人を喰ったような笑みを浮かべている。
「私は確かに美しくはありません。男のお前の方がよほどきれいでしょう。ですが、お前のように産まれたときから、容姿が美しいと人の賞賛を受けてきた者に、私のこの悔しさがわかりますか? 私を見て、大抵の者は口には出さないが、憐れむような眼をする。それは私が醜いからだと、私はよく知っている。実の両親ですら、私のこの容姿について憐れんでいるのですからね」
 春泉の眼に熱いものが湧き上がった。しかし、こんな傲岸不遜な男に蔑まれ貶められて、泣くなんて、誇りが許さない。春泉は唇を痛いくらいに噛みしめることで堪え、更に相手をぐっと睨みつけた。

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