テキストサイズ

淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 顔もろくに知らぬ娘との結婚ゆえ、期待はしていなかった。ただ、性格は悪くはなさそうだから、愛情を抱くことはなくても、夫婦として何とかうまくやってゆけるのであれば良いと考えていたのだ。秀龍も子どもではないし、妻を娶ってまで、〝惚れた女でなければ、その気にはならない〟と突っぱねるつもりはなかった。
 両班の結婚はまた、高貴な血筋を後世に伝える、つまり子孫をなすためでもある。たった一人でも良いから、秀龍は新妻に子を生ませる義務があった。要するに、すべてにおいて、秀龍はこの結婚に過度の期待は抱いていなかったのだ。
 ところが、神仏も時には粋な計らいをなさるものだ。秀龍の前に現れたのは、予想していたよりもずっと魅力的な少女であった。少し顔色が悪いようにも見えたのは、結婚という大きな節目と儀式を迎えようとする若い娘ならではの緊張からだろうと思った。
 婚礼衣装を身に纏った花嫁を見て、秀龍がひとめで〝その気〟になったのは言うまでもない。固めの盃を交わし、互いに拝礼を繰り返す間もずっと、秀龍は惚(ほう)けたように花嫁の美しい顔を眺めていた。もちろん、あまりにあからさまではなく、あくまでも、それとなくだ。
 そして極めつけは新床で見た花嫁の愛らしさだったろう。白い夜着に包まれた肢体はほっそりとしていながら、その上から感じられる胸のふくらみもキュッとくびれた腰回りも実に申し分なく豊満そうだった。
 秀龍が少し傍へ寄っただけで、頬に朱を散らせ、恥ずかしげに伏し目がちになるところがなお愛しく思える。頬に血がのぼったせいで、婚礼のときより血色もよく見え、いっそう魅力的に感じられた。
 整った顔立ちをして、小ぶりな鼻は鼻筋が通り、形の良いふっくらとした唇はきれいな紅色だ。人眼を惹かないのは、表情と生気に乏しいせいだろう。
 それにしても、あの唇の鮮やかさは、どうだろう! 思わず手を伸ばして触れてみたくなる、いや、己れの唇でそのみずみずしい紅い唇を塞ぎたくなる。あの夜の秀龍には、まるで口づけを誘うように見えた。
 春泉自身は全く意識していないのだろうが、時々、口を半開きにした瞬間、小さな舌が覗き、その舌で唇を舐める仕種も色気があった。彼女の無意識の仕種にそそられ、烈しい欲情を憶えてしまった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ