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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 あの夜の自分のふるまいは何度、振り返っても反省すべき点が多々あった。少なくとも自分は紳士だと思ってきたのにと、我ながら愕然としたものだ。
 だが、言い訳にもならないが、あの夜、彼はいかにしても自分を抑えられなかった。春泉が紅い唇をわずかに動かしただけで、カッと身体が熱くなり、その熱が一カ所に集まってゆくのを自覚した。あの唇を開かせ、自分の舌を小さな可愛らしい舌に絡めて思う存分に吸ってみたいという誘惑が絶えず彼の心を揺さぶった。
 褥に押し倒した春泉の泣き顔を見たら、それが歯止めになるどころか、かえって昏(くら)い情動に火がつき、余計に泣かせてみたいとすら思った。この可愛らしい娘を生まれたままの姿にして、敏感な部分を丹念に愛撫してやったら、どんな声で啼くのだろう、きっと愛らしい囀(さえず)りを聞かせてくれるに違いない―などと、世の好色な男と全く同じことを考え、その昏くて淫靡な空想に酔いしれた。
 春泉はあれほど泣いて抵抗したのに、その抵抗すら、彼の中で燃え盛る情動を煽るのに役立ったにすぎなかった。黒い瞳に涙を一杯溜めて震える春泉を守ってやりたいという保護本能をかき立てられる反面、もっと苛めて泣かせてみたい、自分の腕の中で思う存分、乱れさせてみたいという烈しい欲求に駆られた。
 春泉の烈しい怯え様を目の当たりにして、もうこの辺で止めなければともう一人の自分がしきりに囁きかけてきても、結局、誘惑には勝てなかった。灰色の猫が止めなければ、秀龍は春泉をあの夜、自分のものにしてしまっていたに違いない。
 全っく、春泉も興味深い娘だが、あの猫も変わっている。多分、春泉にとって、あの猫は兄弟のようなものなのだろう。猫を屋敷にずっと置いて良いかとおずおずと頼み込んできた彼女に、自分に身を任せれば頼みをきいてやって良いと言ってやったときの春泉の狼狽え様―。
 秀龍に抱かれるのをあれほど厭がったのに、猫一匹のためなら、身を任せても良いと泣きそうな表情(かお)で応えたのだ、あの娘は。いっそのこと、あのまま、冗談ではなく本気で言ったふりをして、あの娘を抱いてしまえば良かったかもしれない。
 そうしていたら、今頃、こんなに悶々と欲求不満に悩まなくても済んだはずだ。

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