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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

「だ、大丈夫ですわ、お母さま。お義父さまもお義母さまも大変よくして下さいますし、旦那さまはお優しい方でいらっしゃいます。皆さまに可愛がって頂き、春泉は何とかやっておりますから、ご安心下さいませ」
「そうですか? それなら良いのですけど。とはいえ、あのお姑さまなら、結構、言いたいことを言いそうですね。私が持参した土産がお気に召さなかったのでしょう。お父さまが生きていた頃の威勢はすっかりなくしてしまった柳家の先行きをご丁寧に案じて下さいましたよ。もちろん、言葉の上だけのことで、内実は土産が粗末すぎると言いたかったのでしょうが」
 言いにくいことを平然と表情も崩さず、さらりと口にする母である。
「お母さま、ところで、何をお持ちになったのですか?」
 ふと興味があって訊ねると、チェギョンは初めてふっと表情を和ませた。
「市の露店で買った蒸し饅頭をお持ちしましたが、それが、どうかしましたか?」
「市で買った蒸し饅頭?」
 思わず素っ頓狂な声を上げ、春泉は慌てて口許を押さえた。
「お母さまが蒸し饅頭を?」
 思わず笑いが込み上げてくるのを堪えるのがひと苦労だ。美しい母が蒸し饅頭の箱を抱えてやって来たと想像しただけで、笑えてしまう。
「お義母さまもさぞ愕かれたでしょうね」
 春泉の言葉に、チェギョンは小さく肩を竦めた。
「あなたに肩身の狭い想いをさせてはいけないとは思ったのですが、今の私には、こちらの奥さまの虚栄心を満足させるために、高価な宝玉を求めるゆとりはありませんからね。贈り物は値段ではありません、心がこもっているかどうかが大切です。あなたもよく憶えておくように」
「はい、お母さま」
 いつも姿勢の良い母を見ていると、春泉まで背筋がピンと伸びてくる。春泉が居住まいを正した時、扉が開いて、若い女中が小卓を運んできた。十日前、秀龍に酷い目に遭わされそうになっていた春泉の危機をオクタンに知らせた、あの娘である。
 色とりどりの眼にも鮮やかな干菓子を盛った皿、一対の急須と湯呑みが配置されている
 女中は小卓を春泉とチェギョンの丁度真ん中辺りに置いた。

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