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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

―皇秀龍と言やア、三年前の科挙でわずか二十一歳の若さで首席合格したというあの天才だろ? 父親は何だったか、お偉い高官だっていうじゃないか。あの皇秀龍が〝傾城香月〟に入れあげてるなんて、信じられねえな。
―いやいや。天才だって、何だって、男なんて皆、本質は一緒さ。特に真面目で女っけがなかった奴ほど、一度道を踏み外したら、元には戻れねえんだぜ。それにしても、一刻の火遊びなら、町の初な素人娘にでもしときゃ良かったものを。世間知らずの若さまが男を手玉に取るのが朝飯前の妓生なんかに引っかかっちまったら、それこそ、もうおしまいさ。骨の髄までむしゃぶりつくされる。身の破滅だぜ。
―おうよ、それにしても、皇家の若さまは、アチラの気があるってことじゃなかったのかい?
 むろん、その男たちの言う〝アチラ〟というのが男色趣味であることは判っている。
―ここに来て、遅まきながら、女の色香にも目ざめたってことだろ。
―良いねえ。羨ましい限りだよ。香月と言やア、男なら誰もが一度は抱いてみてえ高嶺の花じゃねえか。妓生の癖に、王さまの妃みたいに、やたらと気位が高くて客を選り好みするとか。
―止せよ。〝傾城香月〟の二つ名をだてに取る女じゃねぞ。毒のある美しい花と同じで、迂闊に近づけば、すぐに毒気に当てられて死んじまわあな。第一、俺らの面相や身分じゃ、香月は鼻にかけてもくれねえよ。
―んだな。俺らはせいぜい、安酒場でこうやって男二人、淋しく呑むのが良いところか。
 そこに、〝安酒場でお生憎さま、そんなにうちの店が気に入らないなら、とっとと他所へ行っとくれ〟と年増の女将の罵声が飛んできて、男たちの会話はふっつりと止んだ。
 以上が、李執事が最初にチェギョンに話した内容の一切であった。
 すべてを聞き終えた後、春泉には言葉はなかった。
 チェギョンもまた沈んだ面持ちだ。
「春泉、このことはまだ秀龍さまに話してはなりませんよ。男は皆、妻から浮気について問いつめられれば問いつめられるほど、余計にムキになって女に心を移すものです。それよりも、あなたは何も知らないふりをして、これまで以上に心を尽くしてお仕えしないさい。閨を共にするときは、秀龍さまが何をおっしゃっても、逆らってはいけません。今のところは、従順な可愛らしい妻でいなさい」

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