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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

 虫の良い話かもしれないけれど、たとえ夫婦として結ばれずとも、このまま秀龍と何とか上手くやってゆけるのでは思い始めてもいたのだ。
 その矢先、母が来て、秀龍と妓生香月のことを知らされた。
「まだ、そのようなことを、とは、おかしなおっしゃり様ですね。私は初めからずっと変わらず、そのつもりでおりましたし、旦那さまにもそのようにお願い致しましたのに」
「春泉、どうして、そのように頑なになろうとするのだ? 私は私なりに先日の自分の短慮を反省して、そなたに慎重に接してきたつもりだ。あんなことがあったから、そなたを怖がらせてはならない、もう二度と、早まったことはすまいと固く自分を戒めてきた」
「あの夜のことは、もう良いのです。私はもう、忘れました。それに、二度と思い出したくもありません」
「―春泉!」
 振り絞るような悲痛な声は、秀龍の心の叫びだったかもしれない。
 だが、春泉はその声を無視した。
 顔を背けた春泉に、秀龍が吠えた。
「良くない! 頼むから、こっちを向いてくれ、私の話を聞いて欲しい、春泉」
 春泉は首を振った。
「どうか、ご自分のお部屋にお戻り下さいませ。私にはもう旦那さまと何もお話しすることはないのです」
 背を向けた春泉に、秀龍の声が追いかけてくる。
「そなたは十日前のことを忘れたと言うが、私は片時たりとも忘れたことはない。そなたの膚の温もりややわらかな身体のことを思い出す度に、身体が熱くなる。この身の内で燃え盛る焔を抑えつけるのに疲れ果て、気が狂いそうになるのだ! そなたへの切ない恋情に悶々としている私に、そなたは、そこまで言い、頑なに私を拒むのか」
「―そのような話、聞きたくはありません」
「そなたがあくまでも私を拒み通すというのなら、私もこの際、はっきりと言おう。十日前の夜を私が忘れられるはずがない。私の指をきつく締め上げたそなたの内奥は熱くて狭かった。あの感じやすい場所に私自身を沈めれば、さぞ心地良い夢を見られることだろう。私の腕で乱れるそなたを、この眼でしかと見たい。そんなことばかり考えている。つまり、私は、そなたをすぐにでも押し倒して抱きたいのだ。そなたを見る度に、私はいつも淫らな空想ばかりしている。―そういうことだ」

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