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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

「う、それは本当か?」
 思わず、顔を手のひらで撫でてしまう。
 と、香月は先刻より更に大きな癇に障る声で笑い転げた。
「嘘だよ。嘘に決まってるだろう。兄貴のことだから、どうせ、まだモノにしてないんじゃないかと思って、鎌かけてみたんだよ。ほら、ずっとヤラセないって祝言の夜に奥さんから言われたとか何とか、兄貴、死にそうな顔して言ってたじゃないか」
 そう言えば、そんなことを愚痴めいて言ったような記憶もある。だが、それはそれだと秀龍は開き直った。
「おい、何度言ったら、判るんだ? そのやるだとか、やらせるだとかいう品のない言い方は止めろ」
「奥さんの話になると、兄貴は俄然、熱くなるね。―本気なんだ?」
「お前には関係ないことだ」
 取りつく島もない言い方にも、香月は全くめげない。
「堅物の兄貴がそこまで熱くなれる女って、相当良い女なんだろうな。ねえ、一度、ここに連れてきて、俺にも紹介してよ」
「馬鹿言え。妻を妓房に連れてくる亭主がどこにいるっていうんだ」
 これ以上、春泉に嫌われるようなことだけはしたくない。
 香月は悪戯っぽい笑みをその美しい面に浮かべた。白皙の輝くばかりの美貌に刻まれた艶然とした微笑みは確かに、〝漢陽一の傾城〟と評判になるだけのことはある。
 香月の正体を誰よりもよく知っているはずの秀龍さえ、眼の前のこの美しい女が実は男だなどとは時々、信じられなくなってしまう。
「大丈夫だよ」
 香月は婉然と笑んだまま、事もなげに言う。
「兄貴の奥さんに逢うときは、俺、ちゃんと男の格好するからさ。幾ら女の格好するのが好きでも、俺はそっちの気はないんだ。同じ抱くなら、毛むくじゃらの男よりも女の柔肌の方が良いに決まってる」
「―」
 秀龍は最早、呆れて、二の句が継げなかった。だが、待てよ、と思う。
 香月は女装しても、完璧に美人だが、本来の男のなりに戻ったとしても、なかなかの男ぶりなのだ。いや、なかなかというよりは、確実に秀龍よりは上だろう。どう言えば良いのか、壮絶な色香を滴らせた美男に早替わりするのである。

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