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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第9章 哀しい誤解

 春泉は彼の物問いたげな視線から顔を背けた。
「その応えは、ご自分がいちばんよくご存じのはず」
「私には、そなたの言っている意味がさっぱり判らないのだ」
「それでは、そういうことになさっておけば、よろしいではないですか」
 我ながら、よくもこのように冷めた声が出せるのだと感心する。
「春泉、折角、そなたのために買ってきたのだ。頼むから、受け取ってくれないか」
 それでも、秀龍はよく我慢した。
「なっ、春泉。そなたの好きな牡丹の花だ」
 秀龍が花束を差し出した。
 春泉は頑なに振り向こうとしない。
「おい、春泉」
 秀龍が一歩近づいた。無骨な手が花束を差し出そうとする。
 この時、秀龍は何を考えていたのだろう。
 やはり、最後まで、春泉が花束を受け取ると信じていたのだろう。
 けれど、春泉は振り向きもせず、手を差しのべようともしなかった。
 伸ばした秀龍の手から、花がドサリと思い音を立てて落ちた。もしかしたら、その音は秀龍の心の悲鳴だったかもしれない。
 白い花たちは床にたたきつけられ、ぽってりとした大輪の花を無惨に落としたものもあった。
「―!」
 秀龍が両脇に垂らした拳を握りしめた。その拳がぶるぶると震えている。
「それが、そなたの応えなのか、春泉」
 秀龍は呟くと、花の方は見ようともしないで踵を返した。
 背後で扉が音もなく閉まる。秀龍が出ていったのだ。
 春泉はその場にくずおれるように座り込むと、両手で顔を覆った。
 彼の心を傷つけてばかりいることは判っている。でも、許せない。
 理性ではなく、感情が、心が、軋みながら、血を流しているのだ。
 他の女の匂いを身体中に纏いつかせて帰ってくるその無神経さが許せない。
 香月を抱いておきながら、その手で花を買い、春泉の機嫌取りをしようとするその見え透いた心が許せない。
 すべてが許せない。

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