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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第9章 哀しい誤解

 春泉は今すぐにでも秀龍の後を追っていきたかった。彼を振り向かせ、縋りつき、
―私以外の女のひとを見ないで。
 そう訴えたかった。
 あれほど強く刻まれていたはずの光王の面影は今や、殆ど思い出すことさえなくなりつつある。その代わりほど、秀龍が春泉の心を占める場所は日々、大きく膨らんでゆく。
 春泉はこの時、初恋の男光王が既に想い出の中の人となったのをはっきりと悟った。
 そして、初恋の終焉を知ったそのときは、新たな恋を自覚しなければならない瞬間でもあったのである。
 やっぱり、私は秀龍さまが好きなんだ―。
 春泉は、虚ろな心で他人事のように思った。
 けれど、もう、すべてが遅い。これまで春泉がどれだけ差しのべられた手を撥ねつけても、傷つけても、秀龍はけして諦めず春泉に手を差しのべ続けてくれた。
 でも、今度ばかりは無理だ。幾ら我慢強い彼でも、流石に愛想を尽かし、辟易としただろう。こんな愛想の欠片もない可愛げのない女など、顔も見たくないと思われるだろう。思われて仕方のないことを、春泉はした。
 ミャー、ミャウと二匹の猫たちがすり寄ってくる。見れば、春泉の膝に小虎と白猫がそれぞれ前脚を乗せ、涙ぐんだ春泉を気遣うように見上げていた。
「ふふ、今度は小虎だけでなく、お前まで一緒に慰めてくれるのね」
 春泉は微笑み、小虎の隣の真っ白な猫を見つめた。
 その視線が所在なげにさ迷い、床にたたきつけられた花束に辿り着く。
「―素(ソ)花(ファ)。お前の名前は、今日から素花よ」
 素花。それは〝白い花〟を意味する。
 雪のように真白で、穢れを知らぬ純白の花。秀龍が春泉のために選び、贈ってくれた花だ。
―これは私からそなたへの真心の証だ。受け取ってくれ、春泉。
 見たこともないくらい真っ赤になりながら、一生懸命に告げた秀龍。ちゃんと言えるまで、途中で何度も失敗して、やっと口にしたのだ。
 まさしく、この花には彼の心がこもっていたに違いない。
 それでも、やはり、できないのだ。
 他の女とあなたの心を分け合うなんて、そんなのは、いや。

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