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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第10章 予期せぬ真実

そんなことは断じてありません」
 きっぱりと言い、流石に、ここまではっきりと言う必要もなかったかと顔を赤らめた。
 その返事に、秀龍の顔がパッと明るくなる。
 途端に、少し言いにくそうに口ごもりながら、春泉を見た。
「義母上が言っておられたのだが、そなたは実は初夜のことは何も知らなかったと聞き、正直、愕いてしまったよ。たいがいの娘は嫁ぐ前に、そういうことは女親から伝えられるものだと聞いていたからね。けれど、そなたが何も知らなかったのだと知り、何故、あのように怯え抵抗したのかもやっと合点がいった。今朝、そなたの許に来る前、ご挨拶に伺ったら、少しは昨夜に話しておいたからと義母上は仰せだった。―その、それは、そういうことなのだろうか。今は、そなたも少しはそういったことを理解してくれていると思っても良いのか」
 秀龍もまた頬をうっすらと上気させ、曖昧な表現でぼかしているが、つまりは、男女の密事について少しは理解できたのか? と問われているのは春泉にも理解できた。
 秀龍の言葉に、昨夜、風呂の中で母から聞かされたあれこれが甦ってきて―、春泉は頬が熱くなった。
「はい。つまりは、そういうことです」
 真っ赤になって身も世もない心地で頷いた春泉に、秀龍もまた更に紅くなり、〝そ、そうか〟と上ずった声で応え、そういう話はそこで終わりになった。

 それにしても、と秀龍は改めて春泉の存外に整った貌を見ながら、考える。
 先刻の春泉の話は、彼にも軽い衝撃を与えた。春泉の父柳千福にとかくの噂があったのはむろん知っているが、その家庭事情にまでは想いを馳せたこともなかったからだ。
 千福はどうやら、他人だけでなく、家族をも悩ませ、苦しめていたようだ。
 痛ましい想いに胸をつかれ、秀龍は溢れる感情を抑えられなかった。こんな話を聞いてしまった後では、いっそう以前にも増して春泉を愛しいと思う。女々しい話だが、話を聞き終えた直後は、泣きそうになっている自分に気がついて愕然とした。
 秀龍は昔から男の涙は最も恥ずべきものだと考えてきた。男子たるもの、人前で涙を見せてはならないと常に自分に言い聞かせ、感情の揺れを表面に出さないように心がけてきた。 

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