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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第11章 男装女子

―な、何で、この人、私のことをこんな風に見るの?
 香月のひたと向けられた視線には、悪意は全く感じられない。それはそうだろう。
 香月の話は良人からよく聞かされていて、初対面でも、実は既に何度も逢ったことがあるかのように思えるほどなのだ。
 秀龍の話では、香月は女装をするのは好きでも、恋愛に関してはごく正常な趣味を持っていて、衆道ではない、つまり同性愛者ではないと聞いている。
 香月が男としての秀龍に惚れているのならともかく、ただの義兄弟にすぎないのに、秀龍の妻である春泉を見て、嫌な顔をするはずがない。
 香月の冴え冴えと煌めく双眸には、露骨に好奇心が表れている。
 高々と結い上げた黒髪はどこまでも艶やかで、いかにも高価そうな玉の簪が幾つも煌めいていて、チョゴリは白地に紅い花が散り、チマは大きくひろがったやはり鮮やかな紅。指にも翡翠や珊瑚の指輪が幾つも填っていて、玉が惜しげもなく幾つも連なったノリゲは、それだけで〝幾らするの?〟と計算してしまいそうになるほどだ。
 まさに、絢爛と咲き誇る大輪の真紅の薔薇。
 そう形容するにふさわしい華のある美貌だ。
 あまりにあからさまに見つめられ、春泉は扇を開き、顔を隠した。
 部屋を満たす沈黙が形を持っているかのように、ずっしりと重く感じられた。
「春泉さま」
 思いがけず名を呼ばれ、春泉は弾かれたように面を上げた。
「私のことがお判りになるのですか?」
 口にしてから、ハッと口許を手で押さえ、しまったと内心で臍を噛んだ。
「正直なお方だこと」
 美しい顔(かんばせ)に謎めいた微笑みを刻む。
「すぐに判りましたとも。旦那(ナー)さま(リ)からお話はよくお聞きしておりましたから」
 どのように応えて良いものか判らず、春泉は所在なげに視線をさ迷わせる。
「思っていたとおりの女(ひと)だった。―可愛い」
 香月の声音がいきなり変わった。少々低い女の声ではなくて、完全に男の野太い声になっている。
「それにしても、よく来られたね。っていうか、あの兄貴(ヒヨンニム)が奥さんを外に出した方が意外だけど」

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