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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第2章 ひとりぼっちの猫

「それもそうね。それでは、出来上がった服をこちらへ持ってきて」
 玉彈は頷くと、静かに扉を閉めた。
 ほどなく玉彈が戻ってきた。
「こちらにお持ちしました」
 両手には牡丹色の眼にも鮮やかな風呂敷を捧げ持っている。扉を閉めて入ってくると、注意深く風呂敷を解き、中から出したチマチョゴリを春泉の前に置いた。
「いかがでございますか?」
 春泉が無造作に晴れ着を手に取り、はらりとひろげる。まるで煌めく七色の虹を糸にして織り出したかのような美しい晴れ着が現れた。
「まあ、素敵ですこと」
 玉彈の口から思わず感嘆の溜め息が洩れた。この美しい布も言わずと知れた父千福が清国からひそかに持ち帰ったものの一つである。
「―」
 春泉はそのチマチョゴリをぞんざいに放った。揺れる度に、光が反射するようにきらきらと光り輝くのは、布地に直接、無数の玉(ぎよく)を縫い込んであるからだとも聞いた。これを身に纏えば、あたかも光と虹を纏っているように輝いて見えることだろう。
 ただし、こんな華やかな衣装が似合うのは、肌理(きめ)も細やかで色白の、眼の大きな愛らしい少女でなくてはならない。間違っても、自分ではない。
 春泉がこんな代物を着れば、毛深い真っ黒な猪か熊が華やかな服を着ているような―笑える取り合わせになってしまう。
「春泉さま、お気に入りませんか?」
 春泉の憮然とした表情に、玉彈は困惑を見せた。
「こんな衣装が私に似合うと、お父さま(アボジ)もお母さま(オモニ)も本当に信じているのかしら?」
 まだしも、もう少し地味な衣装であれば、春泉が着ても、少なくとも滑稽には見えないはずなのに。派手好きの母が選ぶのは、いつもこんな色黒の春泉には似合わないものばかりだ。
 しかも、両親は、これを着て今月末の礼曹判書の屋敷で行われる宴に出ろなどと言う。こんなものを着ていって、娘が笑い者になるのがそんなに嬉しいのだろうか。

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