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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

水菓房は、国王や王妃を初め、王宮に住まう王族の食を掌る部署の一つではあるが、食事以外のデザートや粥などを担当する場所である。
 当然、毒殺などを未然に防ぐため、警戒は厳重に行われており、部外者が容易く侵入できる場所ではない。
「あの場所にも人気がない時間帯というものはございます。人がわずかな時間なら、素早く行ってくれば、できないことはありません」
「仮に誰かに見咎められでもしたら、いかがするつもりだったのだ?」
 美京は小さく息を吸い込み、涙声で応える。
「尚宮さまのご用だと応えるつもりでおりました」
「だが、尚宮さまはそのような用を申しつけてはいないのだろう? あの方がひと言知らぬと応えれば、そなたは畏れ多くも国王殿下の召し上がる物を盗んだ大罪人として囚われるぞ」
「それは致し方ございません。この狭い後宮内で、先輩や上司に睨まれたら、どうなるか。義禁府で拷問を受けるよりも、もしかしたら辛い目に遭わなければならないでしょう。たとえ、どのような理不尽な命令でも、身に危険が及んでも、言いつけに逆らうすべはないのです」
 美京の淡々とした言葉に、秀龍は眉をひそめた。
「愚かなことを。そなたは義禁府の拷問がどのようなものか知らぬゆえ、そのようなことを申すのだ。大の屈強な男ですら、一日と保たぬと言われるほどきつい数々の仕置きを立て続けに受けてみよ、そなたのような娘は下手をすれば、一刻もせずに失神しよう。もっと自分を大切にしなければならぬ。もう二度と、自棄(やけ)のようなことを考えてはいけない」
「皇都事さま」
 美京が泣きながら訴えた。
「確かに私は自棄のようなことを申し上げました。でも、本当は誰かに見つかって、義禁府に連れてゆかれるのも嫌なのです」
「心配するな。私はそなたを捕らえるつもりも連行するつもりもない」

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