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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

「何だか英真さまと秀龍さまって、性格が似てません?」
「ふふ、それは心外だな。俺は兄貴みたいにコチコチの石頭で、融通の利かない男じゃないつもりだけど」
「そういう意味ではなくて、さりげなく意地悪だったりするところがそっくりです!」
 秀龍もよく今の英真のように、春泉に無理難題を押しつけ、困惑する春泉を見て歓んでいる。全く、血の繋がらない義兄弟の癖に、性格が変なところで似ているのだから!
「ノリゲ、ありがとうございます。大切にしますね」
 二人は再び並んで歩き始める。通りを行き交う人々は更に増え、ぴったりと密着していないと、忽ち迷子になってしまいそうだ。
 秀龍と結婚してからというもの、良人以外の男と、ここまで至近距離で接したのは初めてである。
 春泉が礼を言うと、英真が破顔した。
「女に物を買うなんて、久しぶりだったよ」
「そういえば、秀龍さまが仰せでした。英真さまは昔、妓生になる前は女タラシだったとか」
 うっと、言葉に詰まった英真を見て、春泉は真剣な面持ちで質問を続ける。
「あいつは女のなりをしても男のなりをしても、タラシには違いないとか、そんなことをおっしゃってましたが、本当ですか?」
「春泉も案外、兄貴と似てない? 可愛い顔をして、実にきっぱりはっきりと言いたいことを言ってくれるじゃないか。まあ、夫婦なんだから、似た者同士だとしても、何の不思議もないよねえ」
 それにしても、兄貴の野郎、春泉にどんな俺の悪評を吹き込んでるんだか。俺が男に戻って勝負したら、のっけから負けるのが判ってるから、予防線でも張って俺の印象を悪くしといたのか?
 ぶつぶつと呟いている英真を横目で見ている中に、春泉は前方で子ども数人が騒いでいるのに気づいた。
 注意して見ていると、どうやら、三人の子どもたちが犬をはやしたてているのだ。無抵抗な犬を棒きれで追い回している姿についカッとなり、春泉は駆け出していた。
「あんたたち、そこで何してるの?」
 腰に手を当てて立ちはだかる春泉を見、年嵩と見える悪童が肩を竦めた。

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