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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

「何で、ここに兄貴が出てくるんだ? これは兄貴には全然関係のない話だぜ。俺と春泉だけのことだ。そして、俺は春泉にこれを貰って欲しいと思ってる。理由はそれだけで十分じゃないのか」
 英真の眼が翳った。
「それとも、俺が買った品は受け取りたくない? 男の癖に女なんかの格好をして、ちゃらちゃらしてるイカレた奴の―」
「止めて下さい!」
 本気で憤る春泉に、英真がハッと息を呑んだ。
「先刻も申し上げたはずです。私はたとえ誰が何と言おうと、英真さまの生き方が間違っているとも、変だとも思いません。大体、正しいとか、正しくないとか誰が決めるんですか? 神さまでも仏さまでもないのに、人が人を正しいかどうかなんて決めつけられるものではないですよ。英真さまがそんな風に自分を貶めるようなことを口にする度に、私は哀しくなります。英真さまも香月も、どちらも本当のあなたの姿なのではありませんか? どちらが嘘だとか真だとか、そんなことを考えること自体がおかしいんです。だって、どちらも、同じ人間なのだもの。たとえ外見がどれほど変わろうと、中身が同じなら、それは同じ人でしょう?」
 春泉は英真の買ったノリゲをチョゴリの前紐に通し、結んだ。
「どう、似合いますか?」
 今日の春泉の衣装は蒼を基調としている。チョゴリは白地に薄紫の花が散り、チマは眼の覚めるように鮮やかな蒼色で、紅い花が全体に刺繍されていた。
 丁度、前紐に通した蝶のノリゲがチマに咲いた花に止まっているように見える。
「素敵だ」
 英真が微笑む。
「春泉は、やっぱり、女の子のなりの方が良いよ。まあ、この前の男の格好もあれはあれでなかなか可愛かったけど」
「英真さま、この間のことは秀龍さまには絶対に内緒ですよ」
 春泉が両手をすり合わせて頼み込む仕種をするのに、英真は意地悪な笑みで応えた。
「うーむ、どうしようか。そうだ、今度、もう一度、こうやって俺と逢ってくれたら、兄貴には黙ってやっても良いよ?」
 ええーと、春泉が抗議の声を上げた。
「それって、脅しではないですか!」
 ややあって、春泉が恨めしげな眼で英真を見る。

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