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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「お前が何でそれを知っている?」
 秀龍の声が一段低くなる。こうなると、普段の温厚で理知的な貴公子の雰囲気ではなく、いかにも義禁府の武官らしい研ぎ澄まされたイメージが強く、凄みさえ漂ってくる。
 大抵の者なら、こういうときの秀龍には逆らわないものだが、むろん、英真こと香月がそんな秀龍の変化に頓着するはずもなく、平然としたものだ。
「妓房には様々な客が来るからね。都で起こった事件の色々な情報が集まってくるのさ」
 それに、と、英真がぶっきらぼうに言う。
「俺がどうやって知ったかなんて、そんなことはどうでも良いじゃないか。肝心なのは、奥さんのことだろ」
「もちろん、そなたに言われずとも、屋敷の者たちを都の方々に放って、ゆく方を追っている」
 当然のように言う秀龍に、香月がまた鼻を鳴らした。
「義禁府の役人は動かしたの?」
「馬鹿を言え。たかだか妻が家を出たような私事で国王(チユサン)殿下(チヨナー)の大切な臣下を俺が好きにできるか」
「たかだか妻の家出?」
 秀龍の言葉が気に入らなかったらしい英真が秀龍を睨みつけたかと思ったら、いきなりその手が伸びてきて、胸倉を掴まれた。
「何をするッ」
 秀龍が叫ぶのに、英真はグイと顔を近づける。酔ってほんのりと染まった美貌が壮絶な色香を放っていた。ここまでの男ぶりをひとめ見れば、世の女どもは、またたきもしない間に英真に心を絡め取られるに相違ない。
「兄貴は、どうしてそんな冷淡なことが言えるんだ? 奥さんにぞっこんだって言ってたのは、あれは嘘だったのか!?」
「お前―、どうして」
 秀龍が唖然として英真を見つめ、やがて、ハッとしたような表情になった。
「英真、まさか、春泉に逢ったのか?」
 英真が挑発するように言った。
「ああ、逢ったよ」
「貴様!」
 秀龍は吠え、もがいたが、英真の力は予想外に強く、なかなか襟首を掴んだ手は放れない。
「そなたがどうして春泉に逢う必要があるんだ、一体、いつどこで逢った?」

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