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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「何が未遂だ! 誤解を招くようなことを言うんじゃない。私とその女官の間には本当に何もなかったんだぞ。指一本だって、触れてはいない」
「それは判ってるさ。兄貴はもうどうしようもないほどのコチコチの石頭の堅物だから、それで何事もなく済んだだろうよ。でもね、兄貴、大抵の男ってのは、それだけじゃ済まないんだよ。十中八九、誰もがそんな状況に置かれたら、なるべく事態になっちゃうよ」
 だからね、と、英真が笑った。
「その女官のことも許してやりなよ。罪を憎んで人を憎まず、とは言っても、女につけいる隙を与えた兄貴も悪いんだぜ。そんなときは、たとえ相手が憐れだと思っても、はっきり駄目だと言って、さっさと女の部屋を出てくるべきだよ。可哀想だと思って、中途半端な情けをかけたり曖昧な態度を取るから、女が妙なことを考えるのさ」
「馬鹿言え、いくら殺してやりたいほど腹が立っても、その程度のことで殺したりはしない。そなたは俺がそんな奴だと思ってるのか?」
「まあ、ね。兄貴は普段は憎らしいほど冷静だけど、本当に大切なものを守るためには、なりふり構わないっていうか、情け容赦なくなるときもあるから」
 むろん、秀龍がか弱い女をそのくらいのことで殺したり殴ったりするはずもないが、もし次に王宮内ですれ違ったりすれば、さりげなく脚を引っかけて転ばせたりくらいのことはするかもしれなかった。
 あるいは少し子どもじみているかもしれないが、落とし穴を掘ってやったかもしれない。
 まあ、俺にとっては、その程度では本当は済ましたくはないがな。
 秀龍は一人、心の中で呟く。
 このときも、英真に男の身勝手を改めて指摘されたことで、かえって波立っていた気持ちが静まっていた。
 相も変わらず聞くに堪えないような辛辣な物言いではあるけれど、英真は英真なりに秀龍のことを心配しているのがよく伝わってきた。
「兄貴、良い奥さんを貰ったな。これから、大切しろよ」
 その何げないひと言に、秀龍は鋭い一瞥を英真にくれた。
「お前、まさか」
 英真が子どものように拗ねた口調で言う。
「そうだよ、俺は春泉に惚れちまったんだよ」
 秀龍は絶句した。

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