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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

 とうとう、怖れていたことが起きてしまった! 先刻から、漠然とは予期していたことではあったけれど、いざ英真本人の口から言葉にして聞くと、流石に衝撃は隠せない。
「そなたと春泉は一体、どうやって知り合ったんだ?」
 英真が静かな声音で言った。
「そんなことは、どうだって良いじゃないか。それこそ、先刻も言ったけど、俺と春泉の問題だよ。心配しなくて良い。俺と春泉の間には、何もありゃしないから。第一、春泉は兄貴を一途に慕ってるし、いじらしいくらい健気に信じようとしてる。俺の出る幕なんかありゃしないさ」
 だけど。と、英真は更に真摯なまなざしで続けた。
「俺が見たときの春泉は、いつも淋しそうっていうか、哀しそうな顔をしてた。兄貴、義禁府の勤めも結構だけど、もう少し春泉に構ってやれよ。これからは女も屋敷の奥深くに閉じ込めたって、大人しくしてるような時代じゃなくなってくるぜ。特に春泉みたいな跳ねっ返りは、閉じ込めようとすると、かえって自由を求めて逃げ出しちまう。大切な奥さんにもうと二度逃げられたくないなら、ある程度は好きにさせた方が良いよ。春泉が兄貴を信じてるように、兄貴も春泉を信じてやりなよ。たとえ、どんな良い男を眼にしても、春泉は目移りなんかしやしない。何しろ、この俺さまほどの良い男と一緒にいたって、その気にならないんだから」
 と、最後はいかにも英真らしい自信過剰気味の言葉で終わった。
「桜ヶ丘に春泉はいる」
 そう教えられ、秀龍はすぐにでもその場へ飛んでゆきたいとすら思った。
 部屋を心あらずといった体で出てゆこうとする秀龍の背に、英真の言葉が追いかけてくる。
「今回は大人しく引き下がるが、今度、彼女を泣かせるようなことがあれば、そのときは俺が奥さんを貰うぜ。俺なら、惚れた女をあんな風に泣かせたりはしない。良いか、口だけの脅しじゃないからな。今度、春泉を泣かせたら、俺は絶対に兄貴から貰うぜ」
「判った。今のそなたの言葉を心に刻んでおく」
 秀龍の力強い言葉と共に、部屋の扉が閉まった。
 英真は精も根も尽き果てたように、ゴロリとその場に寝転がった。

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