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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「う、うむ」
 秀龍はさも不本意であるかのように頷き、また、コホンと今度もどう見ても不自然と思える咳払いをした。
 よほど、言い辛い内容なのか。
 春泉は自分でも愚かなほどお人好しだとは思いながら、秀龍が話し易いように話の糸口を示してみた。
「旦那さまは、どうなさりたいのでしょうか?」
「わ、私がど、どうしたいとは?」
 声が戦慄いている。
 これが五年前、並み居る受験生の中、難関の科挙で首席合格を果たした天下の秀才とは思えないような、情けない狼狽えぶりだ。
「つまり」
 流石に、春泉も言葉がつかえた。
 が、ここで二人共に行き詰まっても、先へは進まない。秀龍と元どおりにやってゆくにせよ、別れるにせよ、この問題は避けては通れないのだ。
 ありったけの勇気をかき集め、自分を奮い立たせて、春泉は秀龍を見つめた。
「秀龍さまは、これからどうなさりたいのでしょうか? 昨日、屋敷を訪ねてきたあの女人とのことについて、どうなさるおつもりなのかとお訊ねしているのです」
 そこで、秀龍の声が急に高くなった。
「どうも、そなたは思い違いをしているようだ。春泉。まずは、私たちの間にあるこの大きな誤解を解いておかなくては、話が見えてこない」
「誤解、でございますか?」
 そうだ、と、秀龍が意気込む。
「私が何をどのように思い違いしているというのでしょうか」
「昨日、我が屋敷を訪ねてきたというあの女官は林美京といって、後宮で馬尚宮に仕えている者だ。既にそなたにも言ったように、確かにひと月前、私は林女官の部屋に朝までいた。それは紛れもない事実だ。しかし、その裏には、相応の事情がある。あの時、その事情までを話すことはできなかったが、ここまで来ては、そのようなことも言ってはおられぬ」
 秀龍は小さく息を吸い込み、再び話し続けた。

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