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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「あの日、私は義禁府長から急に残業を言いつけられ、弱り切っていた。そなたの具合が悪いのが判っていながら、宮殿にずっと遅くまで詰めていなければならないなど、考えただけで気が塞いでしまったが、上司の命には逆らえぬ。仕方なく、そのつもりで王宮を歩いていたら、途中で若い女官が蹲り、苦しんでいた。どうしたのかと問うたら、俄な腹痛で動けない有り様だというのだ。到底、そのまま放ってはおけなかった」
「その腹痛に苦しんでいた女官というのが、屋敷に来たあの女なのですね?」
 そうだ、と、秀龍は大きく頷いた。
 それから、秀龍は美京を尚薬の許に連れてゆこうとしたことから、自室までついていって介抱したこと、先輩女官たちに命じられ、水菓房で美京が餅を盗んだことまで話した。
 結局、何をどう勘違いしたのか企んでいたのかはしれないが、美京が勝手に皇氏の屋敷にまで乗り込んできて、ありもしない作り話をでっち上げて春泉に伝えたことも。
 先刻、英真に話したのとほぼ同じ内容の話である。
「もっと早くにそのお話をして下さっていれば、良かったのに」
 春泉が言うと、秀龍が恨めしげな顔で言った。
「私が幾ら真実を話そうとしても、そなたは聞く耳を持ってはくれなかったではないか。第一、私はあの場で、林女官との間には何もなかったとはっきりと誓ったはずだ」
「あら、旦那さまだって、何故、女官の部屋に旦那さまがいなければならなかったのかとお訊ねしても、あのときはすぐに応えては下さらなかったではありませんか」
「よく考えてごらん、春泉」
 秀龍の理知的な瞳が春泉を静かに見つめていた。
「林女官は先輩女官たちに脅されていたんだ。主上(サンガン)さま(マーマ)や中(チユン)殿(ジヨン)さま(マーマ)の召し上がるデザートを賄う水菓房から餅をかすめ取ったと知れたら、到底、ただでは済まない。内命(ネミヨン)婦(プ)のことと、後宮内で内々に処理できればまだ鞭打ち程度で済むだろうが、万が一、外に洩れたら後宮内の不祥事として見過ごしにはできない事態になる。そうなれば、我々義禁府が林女官の身柄を拘束し、彼女は拷問にかけられることになるだろう」
 春泉は息を呑んだ。
 秀龍の視線は揺るぎない。

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