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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

 玉丹は春泉がまだ物心つく前から仕えてきた乳母であった。嫁いできた春泉に従い皇家に仕えるようになってからは、機転のきくところと若い使用人たちに慕われる気さくで慎み深い人柄を見込まれ、女中頭に抜擢された。気難しい義母―秀龍の母ですらが玉丹を信頼し、重宝がっていた。
 しかし、一年前、玉丹は胸の痛みを突如として訴えて倒れた。すぐに医者に診せたところ、心ノ臓の発作で、身体そのものもかなり弱っているとの診立てであった。
 秀龍は春泉の意を酌んで、町外れに小さな家を用意し、そこで玉丹が余生を過ごせるように整えてくれた。今後も、すべて生活の面倒は秀龍が見てくれるとまで言い、屋敷を辞める際、相応の退職金も支払われたのだ。
 玉丹は春泉にとって〝母〟に等しい存在だ。両親に顧みられず孤独の闇の中で一人、打ち震えていた幼い春泉を理解し、抱きしめてくれた唯一の人だったのだから。
 玉丹がいなくなり、今また、小虎ももしかしたら、近い中に自分の傍からいなくなってしまうかもしれない。
 そう考えただけで、叫び出したいほどの淋しさと焦燥感が押し寄せてくる。
 と、再び両開きの扉が開いて、今度は賑やかな声が聞こえてきた。
「お母さま(オモニ)、小虎は帰ってきましたか?」
 今年七歳になったばかりの長女恵里(ヘリ)が風のように部屋に駆け込んでくる。
「まあ、何です。いきなり部屋に入ってくるだなんて、不作法ですよ? いつも部屋に入る前には必ず外で声をかけてからになさいとあれほど言い聞かせているでしょう」
 春泉が眉をつり上げると、恵里は小さな舌を出した。

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