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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

 たとえ真実はほど遠いにしても、今の春泉と香月の立場は秀龍を間にして互いに〝妻〟と〝愛人〟の立場-いわば敵ともいえる関係にあった。八年前に逢ったきの香月は、妓生の姿も本来の男性の姿に戻っても、すごぶる美男であった。しかし、その類希な容姿はともかく、春泉は香月の人となりに強く惹かれた。
逆境を物ともせず、明るくさわやかに生きてゆこうとする不屈の意思は麗しい女姿とは相反して、実に男らしかった。
 実際、秀龍が危ぶんだとおり、秀龍という良人がいなければ、いや秀龍と出逢う前に香月と出逢っていたら、春泉の香月への想いはもっと深い、別のものになっていたかもしれない。
 香月もまた、春泉に強く惹かれながら、互いに父を早くに失い世間というものの冷酷さを身にしみて知っている-その境遇にどこか共通するものを持っていた。

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