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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

「恵里にはかなわないな」
「利発なのはは悪いことではありませんが、少しませているではと時々、心配になります」
 春泉が不安を訴えるのに、秀龍は笑った。
「幼いときにというのは、女の子の方が往々にして成長が速いものだ。私だって、そなたを迎えるまでは書物に親しむしか能のなかった堅物で、世の道理もろくにわきまえられぬ若造だったからな。香月によく言われたよ。兄貴はカチコチの石頭で融通のきかない常識家だと」
「カチコチの石頭、ですか」
 春泉は同じようにつられて明るい笑い声を上げた。
 あの香月-怖ろしいほど頭の切れる弁舌巧みな英真(ヨンジン)であれば、さもありなんと思える。
 世間の手前、香月は秀龍の愛人ということになっている。事実は全く違うのだが、陰謀で処刑された右議政(ウィジョン)の遺児英真は既にこの世にはいないとされているのだ。
 香月が実は男だとは誰にも知られてはならない極秘事項である。
 ゆえに、香月の正体が露見しないためにも、〝恋人〟とされる秀龍の存在はとても重要な意味を持つのだ。

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