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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第16章 眠れる美女

 また、監禁されている者がこうまで堂々と呑気に眠りこけていられるものだろうか。普通、もう少し切羽詰まったというか、追いつめられた雰囲気が漂っていそうなものだ。
 春泉は改めて鈴寧を見た。まるで、たった今、情事を終えたばかりのような、艶めかしい肢体には気だるさが漂っている。
 春泉は思わずこの狭く暗い室で眼前の女が男と絡み合う姿を思い描き、身体が熱くなった。
 自分は、何という淫らな妄想に耽っているのだろう。まだ、ほんの午前中だというのに、布団に寝ている女を見ただけで、ここまで妄想を逞しくするとは。
 しかし、しどけなく横たわっている鈴寧の姿は、そんな果てしない想像をかき立てる何かがある。
 それにしても、何と安らかそうに眠っていることか! よほど疲れているのか、熟睡している。普通、人が傍に来れば、神経質な者であれば、すぐに眼を覚ますはずだ。元々、大胆な質なのかもしれない。
 これほど眠り込むほどのことをしたといえば、はやり―。
 再び身体を重ねる鈴寧と男の映像が眼裏に浮かぶ。そこまで考えてきて、春泉は慌てて首を振った。
 私ったら、何を考えているの?
「う―ん」
 その時、鈴寧が寝返りを打った。
 春泉はその場に飛び上がり、慌てて立ち上がった。
 こんな場所に一刻たりともいられない。狼狽え、よろめきながら逃れるようにその家から転がり出た。
 その後は、どこをどう歩いたかも判らない。とにかく闇雲に歩き回っている中に、井戸傍で野菜を洗ったり、米を研いだりしている女中たちの一団に出くわした。初め彼女たちは、見るからに両班の奥方の身なりをした春泉を不審そうに眺めていたが、その中の年嵩の女がおずおずと進み出た。
「奥さま(マーニム)、どうかなさいましたか?」
 その問いに、春泉は努めて平静に応えた。
「あまりにお庭が広いので、つい迷ってしまって。お屋敷から門までかなり距離があるというので、送って下さるとこちらの奥さまがおっしゃったのだけど、一人で大丈夫とお応えしたのです。やはり、送って頂くべきだったわ」
 声が震えないようにするのが精一杯だった。

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