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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第16章 眠れる美女

 ならば、鈴寧は、もう死んでいるのか―。
 春泉は意を決して、女の顔を確かめようと視線を動かした。
 眼を瞑って、一、二、三と自分で数えて、えいっと眼を開く。刹那、春泉はまたもや声を上げそうになり、口許を押さえた。
 予想したとおり、確かに布団に寝かされていたのは鈴寧であった。鈴寧の死に顔は実に安らかで、その顔色は―。
 春泉は愕然と到底死人には見えないその顔色を茫然と見つめた。
 今し方、彼女の顔が土気色に見えたのは、室内の暗さのせいだったようだ。間近で見ると、鈴寧はまるで生きているかのように血色も良く、膚は透き通るような雪膚で、頬にはかすかに赤みが差していた。
 豊かな胸の膨らみが白い夜着の上からでもはっきりと判り、衿許がしどけなく開いているのも何とも艶めかしい。こうして横たわっているだけでも、正視できないほどの凄絶な色気を放っている。
 春泉はなおも鈴寧を注意深く観察した。鈴寧の胸がかすかに上下している。―彼女は死んではいない、ちゃんと生きている!!
 大体、こんな健康そうな死人がこの世に存在するはずがない。
 そう知った途端、春泉はホッとして、その場にくずおれそうになった。しかし、その一方で、暗澹たる想いに駆られた。
 吏曹判書夫人は、鈴寧がまだ見舞客に逢わせられる状態ではないと言ったが、どう見ても、今の彼女は健康そのものに見える。とはいえ、てんかんの発作を起こした後は尋常ではなくなるともいうから、一見何の問題もなさそうに見えても、何か問題があるのだろうか。
 もしかしたらと、春泉は考えた。鈴寧は監禁されているのかもしれない。身体そのものには問題がなくても、精神に異常を来したのだとしたら? 彼女の男好き、奔放さは噂になるほどなのだ。それが今までよりも更に烈しくなれば、手も付けられない状態になってしまう。
 だからこそ、鈴寧が倒れたのを良いことに、ここに監禁したのではないか。
 だが、それにしては、解せぬことがある。
 第一に、監禁ならば、当然ながら監視の者がつくだろう。しかし、どう見ても、この家には見張りはついておらず、この屋敷の者たちはこの打ち捨てられたような家に何の注意も払っていないようだ。

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