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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第17章 月夜の密会

「普通は猫という生きものは、亡くなるところを人に見せないと言われているだろう? 一時、小虎が姿を消した時、私はあれで本当にあの猫のことを心配していたんだ。自らの寿命を悟り、自分からいなくなったのでないかと不安でならなかった。小虎が戻ってきて、あの時、私は正直、ホッとした。さりながら、考えてみれば、もう既に、あの頃、彼は残りの生命が幾ばくもないことを知っていたのかもしれない。小虎はきっと、最後まで春泉の傍にいたかったんだ。だから、戻ってきたのだよ」
「旦那さま」
 春泉はまだ身を震わせながら、秀龍を見上げた。
 春泉には、予感があった。生と死は常に隣り合わせにある。ひょっとしたら、小虎は新たな生を生きるために、ほんのしばらく春泉の傍からいなくなって近い中に再び戻ってくるのではないかと。
「私、身籠もったらしいのです」
 秀龍が優しい笑みで頷いた。
「そのことなら、もう知っていた」
 眼を見開いた春泉に、秀龍が幾度も頷く。
「恵里のときほどではないにしても、このところ、そなたは悪阻で食があまり進まないようだったし、私が夜に訪れても何かと理由をつけて避けていたからね。それで、ははーんと思っていた」
「小虎はもしかしたら生まれ変わって、今度は私たちの子どもとして帰ってくるのかもしれませんね」
 そんなことを言えば、秀龍が機嫌を悪くするかと思っていたのに、意外にも良人は笑った。
「そうだな。小虎の生まれ変わりならば、さぞ利発な息子だろうよ。この猫は冗談でなく、本当に頭で何か考えているのではと本気で思ったことは実は何度もあるからな」
 秀龍はそう言って、春泉の抱く小虎の頭を撫でた。
「また、逢おうな。お前が生まれ変わってくるのを待ってるぞ」
 この十年間、秀龍が小虎を煙たがっているように見えたのと同様、小虎もまた秀龍を敵視しているかのようにも思え―、春泉を巡るこの一人と一匹の関係は実に複雑だった。
 けれど。小虎は嫌っていたはずの秀龍の部屋の前、クチナシの白い花が咲き匂う場所を永遠の眠りにつく場所に選んだのだ。

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