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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 光王が河原に座ると、男もまた少し離れて傍らに腰を下ろした。
 光王は懐から小さな包みを取り出す。大好物の蒸し饅頭が三個入っている。今朝、町の露店で店の主人を彼の浮気を女房にばらしてやるとほんの少し強請って、せしめた―いや、貰ったのだ。
 饅頭はむろんとうに冷めてしまっているが、彼はその中の一つをおもむろに男に差し出した。
「―妹が死んだんだ」
 男は差し出された饅頭を礼も言わず受け取り、かぶりとひと口囓る。
 光王もそれに倣うように、冷たい饅頭にかぶりついた。
「訳ありの死なのか?」
 さらりと訊ねた光王に、男は小さく幾度も頷いた。
「訳ありといえば、大ありだろう」
 男は訥々とこれまでの来し方を語り始めた。
 男の名前は蘇延(ソヨン)。都からさほど離れていない近在の農村から一年余り前に出てきた。二人が年老いた両親と暮らしていたのは鄙びた小さな村で、村人全部合わせても五十人もいないような村であった。
 二人は両親が老いてから恵まれた子であった。ふた親も五十を過ぎ、加えて持病を患うことから、農業も難しくなった。
「それで、俺と妹が漢(ハ)陽(ニヤン)に働きに出てきたんだ」
 男は先刻の笑顔が嘘のように陰気な顔で言った。
「二人で一生懸命に働いて、村にいる両親に仕送りしようって話してたんだ。もし、うまくゆけば、家の一軒でも買って、両親を呼び寄せてやれるかなって」
 しかし、それは所詮、儚い夢にすぎず、都に出てきた当初は働き口すら、ろくに見つからなかった。それでも、やっとソヨンは代書屋(頼まれて手紙・文書などを清書する仕事)の使い走りの仕事、妹はさる富豪のお屋敷に女中奉公が決まった。
 妹は住み込みだったので、二人して借りていた小さな家から奉公先のお屋敷に移った。そうして、妹とは、ずっと逢えない日々が続いた。
 そんなある日、妹が突然、彼の暮らす家に戻ってきたのだという。妹が言うには、
「何でも上手いことやって、お屋敷のご主人さまのお手つきになったとかいうんだ」
 ソヨンは辛そうな表情で首を振る。

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