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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

「聞いたことがあるんだ。〝光の王〟という手練れの暗殺者集団が存在すると」
 ソヨンはよもや、眼前の〝ただの軽い女タラシ〟がその〝光王〟だと想像もしていないに違いない。
「いや、俺自身は聞いたこともないな」
 済まないとは思いつつ、光王は素知らぬふりで応えた。
「でも、どうして突然、そんな話を? 手練れの暗殺者集団だなんて、聞いただけでもチビリそうだぜ。俺、悪いけど、そういう怖いのって苦手なんだよ」
 などと思いきり下品なことを言うと、ソヨンはまたも呆れ顔になった。
「その〝光の王〟の頭目(リーダー)が〝光王〟というらしいんだ。玄人(プロ)の暗殺者で、狙った獲物はひと太刀で仕留める凄腕だと聞いた」
「―へえ、そんな神業を持つヤツがこの世に本当にいるとは、怖ろしいことだ。闇夜では絶対に出逢いたくない相手だな」
 ソヨンが表情を引きしめた。
「生命を助けて貰ったついでに頼みたい。俺はどうしても妹の恨みを晴らしたい。〝光王〟は滅多と素顔を晒さないというから、俺のような平凡な男が逢おうと思って簡単に逢える人物じゃない。でも、あんたのような遊び人なら、あちこち出入りして結構顔が広いだろうから、何かツテがあるかもしれない。だから、俺の代わりに〝光王〟に逢って、これを渡して欲しいんだ」
 スリョンは左袖から蒼色の巾着を出した。空の蒼を写し取ったかのような鮮やかな蒼色。それが光王の手に押しつけられた。
「頼む。〝光王〟を探して、これを渡して妹の敵を討って欲しいと依頼してくれ」
「この中身は何だ?」
「執事が俺に渡した口止め料の一部だ。殆ど飲み代として妓生たちにやってしまったが、まだ一つ、二つは残っている。これだけでも、かなりの金に代えられるはずだ。〝光王〟は金のために動くのではないというから、これだけあれば、やってくれると思う」
 そう、プロの暗殺者〝光王〟はけして、他人の命令では動かない。また、金を幾ら積んでも、動かない。彼自身がその〝仕事〟に納得し、依頼者の境遇・暗殺を望む理由に心からの共感を得なければ、依頼を引き受けない。
 裏腹に、何者かに命令されなくても、光王がこの世の必要悪だと判断した場合、その人間は永遠にこの世から抹消されるのだ―。
「もし、俺がこのお宝を持って、ずらかっちまったら?」
 光王があくまでも〝軽い女タラシ〟の顔で訊くと、ソヨンが笑った。

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