テキストサイズ

淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

   母の恋

 柳家の屋敷では、変わりない日々が流れていった。寒い冬が漸く終わり、漢陽にも桜の咲く季節がめぐってくる。
 四月初めのある日、柳家の夫人蔡(チェ)京(ギヨン)はいつになく華やいだ心もちで庭を歩いていた。その理由はむろん、良人のここのところの変わり様にある。
 彼女の良人千福はとにかく知る人ぞ知る艶福家である。といえば、何やら聞こえは良いが、何のことはない、ただの好き者だ。チェギョンが柳家に嫁してきたばかりの新婚時代は、彼女もよく良人の女癖の悪さには泣かされた。
 屋敷中の若い女中で、千福の手のついておらぬ者はいないと囁かれるほど、やりたい放題にやっていたのだ。当時はまだ、千福の母―つまり姑が生きており、チェギョンも表立って不服を唱えられず、良人に訴えるくらいであった。
 それが姑が結婚後三年して亡くなり、チェギョンは不満を思う存分に主張できる立場になった。その頃、千福は相も変わらず屋敷中の女という女に手を付けていたが、彼女はまずそんな女たちを厳しく罰した。鞭で叩いたり、身籠もった者は執事に命じて、ひそかに堕胎薬を飲ませた。最後まで生みたいと訴え続ける者は瀕死の状態になるまで鞭打たせ、外に放り出した。
 やがて、千福は妻のあまりの嫉妬深さにおそれをなし、屋敷内の女中にちょっかいを出すことはなくなった。しかし、女道楽が何よりの生き甲斐という男がそのまま大人しくしているはずもない。
 次に千福が考えたのは、気に入った女を町の別宅に住まわせ、自ら女の許に通うというやり方であった。これはすごぶる慎重にふるまったので、流石のチェギョンも尻尾を掴むのは難しかった。
 もちろん、彼女も馬鹿ではないから、完全に騙されているわけではない。怪しいと思いながらも、物凄く巧妙に立ち回るので、女がいるという証拠を掴めないでいるのだ。
 また、たまに女の存在を突き止めても、何もわざわざ自宅から遠く離れた場所にいる妾の許へ乗り込んでいくという、妻としては大醜態を晒す必要はない。
 自分の眼の届かぬところでやるなら、結構と、年を経るにつれ、いささかは耐えるということも憶えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ