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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

 いつもむっつりと黙り込んでいて、母でありながら、娘の考えていることが皆目判らない。放ったらかしにしてきたのだから、自業自得といえばそうなのだが、時々、親として寂寥感を感じた。
 せめてもの親らしい愛情の示し方といえば、春泉をどこか良いところに嫁がせてやるくらいのものだ。そのためにも、せいぜい娘を美しく装わせておきたいのだが、娘は母に反発するように、母が仕立てさせたきらびやかなチマチョゴリを敬遠した。
 目下のところは、礼曹判書の子息との見合いを実現すべく、チェギョンはあれこれとツテを頼って根回ししているところである。二月に予定されていた礼曹判書の屋敷での宴には、結局、春泉は伴えなかった。何でも風邪気味で頭が痛いということだったが―、果たして本当にそうだったのか、行きたくないゆえの仮病だったのかは判らない。
 春泉はチェギョンがわざわざ娘のために仕立てさせた素晴らしく美しいチマチョゴリを何と、引き裂いてしまうという暴挙に出たのだ! 折角の晴れ着は礼曹判書邸での宴のために用意したものだった。このことからも、娘がこの縁談に乗り気でないことは判っている。
 幾ら金があっても、商人は所詮、両班の下に跪かなければならない。だからこそ、春泉を力のある両班に輿入れさせようとしているこの親心がどうして通じないのだろう。
 だが、最近、一つだけ愕くべき事態が起きた。春泉が以前に比べると、見違えるほど美しくなってきたのだ。あの垢抜けない娘がさながら蛹から蝶になるように、臈長けてきた。急に綺麗になった娘に、チェギョンは母として歓びよりも不安を憶えた。若い娘ゆえ、親の知らぬ間にどこかの男と恋仲にでもなったのかと勘繰ったのである。
 恋は女を変える。男への想いが深く、恋が充実していればいるほど、女はより生き生きと輝きを放ち、美しくなってゆくものだ。それは、自身の経験からもよく心得ている。
 乳母を監視役につけてはいるものの、あの乳母は春泉には砂糖菓子のように甘く、甘やかしてばかりいるから、当てにはならない。
 自分が春泉を放置して育児放棄していたにも拘わらず、チェギョンは春泉が我が儘で鼻持ちならない娘になったのは乳母の育て方のせいにしている。そのことに、彼女自身は気づいていない。

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