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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

 これでは、母親を二重に利用しているようではないか。そう思った時、光王の中にすとんと落ちてきた想いがあった。
 ああ、ということは、俺は春泉に惚れているんだなと、半ば他人事のように思った。惚れているからこそ、春泉を抱きたいと思う。
 惚れている女にはかえって迂闊には手が出せないから、千福の妻に近づいて情報を引き出すというこの機会を利用して、春泉の代わりにその母親を抱こうとする。
 俺もとことん、とんでもない野郎じゃねえか。それじゃア、人でなしだぜ。
 一瞬、この女に対して申し訳ない想いになったが、今更、引き返せるものではない。
 あいつの母親とそういう関係になれば、春泉は俺をどんな薄汚い男だと蔑むだろう。
 そう思うと、胸がちくりと痛む。   
「良いでしょう。丁度、髪に飾る簪か指輪か、耳輪、何か欲しいと思っていたところよ。お前の商う品を見せてちょうだい」
 チェギョンが静かな声音で言う。だが、光王には判った。まなざしにも言葉の端々にもかすかな媚態が込められている。
 向こうがその気なら、こっちも乗るまでだ。
 光王は手招きしている夫人に向かって、一歩踏み出す。その脚取りには先刻までの迷いはもう、微塵もなかった。
 
 千福を見送ってから、少しく後、チェギョンはふと思い立ち、門の方へと脚を向けた。良人たちはとうに出立しているだろうとは思っていたけれど、もしかしたらと思ったのである。が、思ったとおり、既に門の内外には人影はなく、ひっそりと静まり返っていた。
 そのときである。チェギョンは視線を感じて、うつむけていた顔を上げた。彼女の視線が動き、吸い寄せられるように門の向こうに立つ人影を捉えた。
 チェギョンの瞳に映じたのは、まだ若い青年、いや、少年であった。確かに見た目は二十三、四に見えないこともないが、鋭角的な輪郭を描く顎の線にふと、少年期から青年期へと移行する年齢特有の微妙な不安定さが漂っている。
 チェギョンも一児の母である。子どもの歳をそうそう見誤るはずはない。この若者は大人びて見えるが、せいぜい十七、八になったばかりといったところだ。
 それにしても、何と美しい若者だろう!

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