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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

 少年は彼女に問い、そして、彼女は夢現(ゆめうつつ)の中に応えた。
「―十日後」
 その刹那、少年がまだ十分に固さを保ったまま、彼女の奥を強くひと突きする。
「ああっ」
 チェギョンは突如として、あまりにも烈しすぎる快楽を与えられ、喘ぎ、意識を手放した。
 ゆっくりと意識が闇に呑み込まれてゆく。 やがて、彼女は完全に気を失った。
 次に目ざめた時、既に部屋の外は黄昏の気配が迫っており、西の空が夕陽の色に染まっていた。
 当然のことと言うべきか、あの美しい少年の姿はどこにもない。
 それだけであれば、悪い夢を見たとでも思うだろう。しかし、チェギョンは衣服を一切纏っておらず、寝乱れた床の上に彼女の着ていた緑色のチョゴリと紅色のチマが脱ぎ捨てられていた。
 鮮やかなチマチョゴリが床にひろがっている光景は、あたかも大輪の花が咲いているようにも見える。
 身体中に情事の名残が残っていて、けだるかった。チェギョンはふと、箱枕の上で何か光ったような気がして、眼を凝らした。
 枕の上に確かに何かがある。
 そっと手を伸ばしつまみ上げてみると、それは深い緑色をした耳飾りであった。砂金(アベン)水晶(チユリン)(印度翡翠)に相違なく、まだ微熱を帯びた指先が触れた箇所がひんやりとして心地良い。
 夕陽にかざすと、小さな耳飾りは夕陽の色に染まる。温かな色合いを映し出した耳飾りは、チェギョンの心にもかすかな温もりを与えてくれるようだ。
―あなたのこの可愛らしい小さな耳朶に似合う耳輪がきっと俺の持ってきた箱の中にあるはずだから、後で探してあげるよ。 
 少年の少し掠れた声が耳奥でこだました。
 まるであやかしのような少年だった。 
「あなたは、私の心を盗んだまま、何も言わないで行ってしまったのね」
 チェギョンの白い頬を涙がひとすじ、流れ落ちる。
 これは夢ではないと知りながら、夢を見ていたような気分だった。甘やかな夢は見ている間が幸せであればあるほど、目ざめた後、いっそう空しい。

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