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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 光王の形の良い口許が皮肉げな笑みの形を象る。
「生憎と俺はお嬢さまのように学がないもんで、懇切丁寧に教えて貰わなけりゃア、理解できないんだ」
 光王は威圧するような眼で春泉を見た。
 こんな彼は初めて見る。まるで、手負いの狼が低い唸りを上げているようだ。怖い。怯えた春泉は身を竦ませた。
 その彼女の反応は更に光王を失望させ、追いつめた。
 どうして、どうしてなんだ。惚れた女を泣かせ、怖がらせて、罵りの言葉で互いを傷つけ合って。どこまでいっても、無意味な言い争いなだけじゃないか? 
 俺は、俺は―!!
 光王が拳を握りしめた時、春泉の口から言葉が迸るように溢れた。
「あなたが知っているかどうかは判らないけど、私の両親はもうずっと昔から、絶縁状態なの。むろん、上辺だけは取り繕っている。それでも、お互いに憎しみ合っているのは誰が見ても一目瞭然よ。だから、母は淋しかったんでしょうね。父に内緒で―」
 そこで春泉は少し言い淀んだ。このような話題は、できれば若い娘が男を相手にしたくはないものだ。
 春泉は小さく深呼吸して、わずかな躊躇いをかなぐり捨てた。
「父にバレないように、若い男と―束の間の気晴らしをするようになったの」
 光王の前で〝情事〟とあからさまな表現はどうしても使えなかった。曖昧にぼかして言っても、この男ならすぐに察するはずだ。
 何しろ、たった今、彼自身が母のその気晴らしに協力してきたばかりなのだから。
 春泉は厭々をするように小さくかぶりを振る。
「単刀直入に言うわ。要するに、あなたは私の母を侮辱した。母が父に顧みられなくて持て余している心の隙間につけいったのよ。最も恥ずべき卑怯なふるまいね。良い歳をして、あなたは恥ずかしくはないの? お金欲しさに身体を売るなんて! 母の淋しさに付け込んで母を辱めたあなたを私は絶対に許さないわ」
 光王の眼つきが一段と険しくなった。
「俺を汚いとお前はさっきから言い続けているが、それじゃあ、お前の父親はどうなんだ? お前の父がしていることは汚くはないのか、卑怯ではないのか?」

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