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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

「何のこと? 何が言いたいの?」
「お前の父親が陰でしてることを、お前はどこまで知ってるんだ? 柳千福が何と呼ばれているか、知っているのか? 一度食らいついたら、人の生き血をとことん吸い尽くす蛭、そんな男だと言われてるんだぞ」
 もう止めておけ、それ以上は言うなと、心の声が告げていた。春泉が真実を知っても、何の解決にもならない。ただ、彼女が余計に傷つくだけだ。
 だが、春泉が止まらないように、光王もまた止まれなかった。
「商いのことだけじゃない。お前の親父は、女にかけても相当のワルだっていうじゃねえか」
「―」
 春泉が黙った。辛そうに眼を伏せる。恐らく、娘である彼女も父の悪行については厭というほど知っているのだろう。
「ふた月前、この屋敷から突然、姿を消した女中を憶えているか? 名前はスンジョンだ」
 その名に、春泉のか細い肩がピクリと震えた。心当たりがあるのだ。
「そ、その女中がどうかしたとでも?」
 精一杯強がっているが、いかんせん、声が震えている。相当に動揺しているのだ。
「その女中が今、どうなったかを知りたくはないか」
 畳みかけるように言ってやると、春泉が上目遣いに視線を向けた。
「そのことなら、私も知ってるわ。どうせ、お父さまがどこかに屋敷を与えて、スンジョンはそこにいるんでしょ。あの娘がどうしたの? そろそろ、子どもでもできた頃かしら」
「当たらずとも遠からずだな」
 光王はわざと春泉の気を引くようにゆっくりと言い、彼女の瞳を射貫くように見つめた。
「確かにお前の予想は当たっている。ただし、スンジョンはもうこの世にはいない」
「まさか。あなた、何を言って―」
 今度は春泉の声がはっきりと震えた。
「本当だ。俺は嘘は言わない。そんなことを言っても、何の特にもならないからな。スンジョンは腹の子ごと始末された」
「嘘、お父さまがスンジョンを殺すはずがない」
 だが。春泉は口では否定しても、眼前の男の言葉が嘘でもはったりでもないことを認めていた。

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