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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

「確か四つ違いの兄貴と年老いた両親がいるはずだ。両親は村に残って、兄貴とスンジョンが漢陽に出稼ぎに出てきたとか言ってたな。お嬢さん、お前の優しい心がけして無駄だとは言わないが、悪いことは言わねえ、余計なことは止めておけ。スンジョンのことはもう忘れた方が良い」
「でも! それでは、せめて漢陽にいるお兄さんという人にだけでも逢って、謝らなくては」
 春泉がムキになったように言うのに、光王はゆるゆると首を振る。
「考えてもみろよ。お前は大切な妹を殺した憎い男の娘なんだぞ? 殺されたスンジョンの兄貴がお前に逢って、今更詫びられても、かえって忘れかけた憎しみと哀しみを思い出すだけじゃないのか?」
 光王の瞳は凪いだ海のように静まっている。そこには怒りも憐れみもなく、ただ限りなく無に近い静謐さがあるだけだ。
「そう―ね」
 憎い男の娘と言われたのはこたえたが、確かに彼の言い分はもっともといえた。
 春泉はスンジョンの兄に謝れば、それで気が軽くなるかもしれないが、兄の方にしてみれば、それで〝はい、そうですか〟では済まないのは当然だ。
 むしろ、死んだ妹と同じ歳頃の春泉を間近に見、更にそれが妹を殺した男の娘だと知れば、心は必要以上に波立ち、ささくれ立つに違いない。
 それだけの心のあやが考えられないとは、本当に自分は身勝手で自分本位な人間だ。
「私って、本当に馬鹿ね」
 落胆を隠せない春泉に、光王は労りの滲んだ声音で言った。
「親父の罪をお前が背負うことはないんだ。良いな?」
 そう、千福は己れの罪を自分自身で償うべきだ。ひと一人の生命を理不尽にも奪い去った罪は、彼自身の生命で贖うべきなのだ。
 もうじき、罪深い千福に鉄槌が下されるだろう。そして、それを下すのは―他ならぬ自分だ。
 だが、いかにしても、その残酷な事実を春泉に告げられるものではなかった。
「お兄さん(オラボニ)は今、どうしているの?」
 繰り出された質問に対して、光王は殆ど聞き取れないほどの声で応えた。
「手練れの刺客に、妹の恨みを晴らして欲しいと頼んだそうだ」

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