
たまゆらの棘
第2章 燃ゆる日々
意外にも先に気づき、声をかけてきたのは麗の方だった。初めお上品そうに話しをしていてチカッと倫と目が合ったのだ。麗はくわえていたストローを口から離し、驚いた顔で口をポカンと開けて言った。「…倫…くん…?」倫は激しい嫉妬にかられた。麗の持ち物、バッグから着ているものまで一級品。きっと日舞も才能がないながら続けているに違いない。…倫は心を落ち着かせて答えた。(あの時の俺とは違う…)そう。悪魔の心で。「やあ、久しぶりだね。…麗さん。」倫はニコッとして見せた。三人は頬を赤く染めた。(麗、誰?すごい綺麗で…かっこいい人…)こそっと三人のうちの一人が麗に耳打ちしたのが聞こえた。「私の幼なじみよ。魂綺 倫くん。」麗は背筋をピンと伸ばして胸を張り、大きな声で言った。その物言いは自慢気で、すでに倫は自分のものだと言わんばかりの勢いだった。そこで倫の悪魔の心は決まった。これに復讐しようと。「日舞は続けてるの?」麗は目を輝かして聞いた。「うん。…この間、藤娘を踊った。」倫は家出をする少し前に確かに藤娘を踊っていたが、日舞をやめたことは麗には言いたくなかった。「ええ!すごい!私、これからよ。倫くんの藤娘…さぞ綺麗だったでしょうね。」麗の瞳は更に輝いた。「…麗さん、僕、携帯電話ないんだ。公衆電話から…また連絡するよ。よかったら番号教えてくれる?」「もちろんよ!」麗は何のためらいもなく倫に自分の携帯番号を教えた。倫が本当はママ名義で携帯電話を持ってることを知らずに。
