
たまゆらの棘
第2章 燃ゆる日々
バーでの倫は順風満帆という感じだった。お得意の客も来て、倫は大層ママに気に入られた。この店は五十過ぎた美しいママと倫のふたりで営んでいた。ママは長い水商売の経験上からか倫の身の上を詮索しかなった。倫にはそれがすごく助かった。倫は、気付けば十七歳も過ぎていた。ママの旦那は籍を入れていない暴力団幹部で倫も何度か店で会ったことがある。無口な男で、じいっと倫を見て「いい子が入ったな」とだけ、ママに言っていたのを、倫はグラスを拭きながら横耳で聞いた。倫は水商売の制服、真っ白なシャツと黒い蝶ネクタイ、黒のスラックスが、その細い体によく似合った。ママは旦那が来る夜は、必ずなぜか和服姿で店に立った。五十を過ぎてもアップにした髪のうなじの美しさに、倫も時々みとれた。
ある夜、開店準備をしていると、倫の後ろから「…倫くん…」ぞっとするようなか細い声に、振り向いた途端、倫の腕に強い刺激が走った。白いシャツがみるみる赤い血に染まりポタポタと床に垂れた。「キャーーーッ!」ママが叫んだ。「警察!警察!」「警察は駄目だ!ママ、警察は呼ばないで!」「だって!」その時、大きな男が瑠璃を押さえつけていた。ママの旦那だ。瑠璃は暴れることも出来ずにナイフを床に落とし、その場に泣き崩れた。「私の倫くん…私の…」とブツブツと何か囁いていた。「倫!病院行きなさい!警察沙汰にしたくないなら刺されたって言っちゃ駄目!早く!」ママは叫んだ。「この女は俺がみる。俺が教える医者に行くんだ。」ママの旦那は言った。刺された腕をシャツの上からギュッと掴み、「どうして…こんなことに…」倫は震えるだけだった。
ある夜、開店準備をしていると、倫の後ろから「…倫くん…」ぞっとするようなか細い声に、振り向いた途端、倫の腕に強い刺激が走った。白いシャツがみるみる赤い血に染まりポタポタと床に垂れた。「キャーーーッ!」ママが叫んだ。「警察!警察!」「警察は駄目だ!ママ、警察は呼ばないで!」「だって!」その時、大きな男が瑠璃を押さえつけていた。ママの旦那だ。瑠璃は暴れることも出来ずにナイフを床に落とし、その場に泣き崩れた。「私の倫くん…私の…」とブツブツと何か囁いていた。「倫!病院行きなさい!警察沙汰にしたくないなら刺されたって言っちゃ駄目!早く!」ママは叫んだ。「この女は俺がみる。俺が教える医者に行くんだ。」ママの旦那は言った。刺された腕をシャツの上からギュッと掴み、「どうして…こんなことに…」倫は震えるだけだった。
