
たまゆらの棘
第2章 燃ゆる日々
伊勢丹やら高島屋ならすぐそこにあるのに、男は、わざわざプレタポルテ本店で買うのが好きだった。支払いはいつもカード。このカードに一体いくらの財産が詰まっているのだろうと、倫はいつも男が財布からカードを出す度に思った。男は大体いつも、渋い色付きのシャツにイタリア製のスーツを着ていた。倫には「お前はまだ若いから日本製でちょうどいい。」などと、倫にはたまに良くわからないことを、独り言のように言った。プレタのスーツを着た倫はまさにモデルそのものだった。髪も男の行き着けの店でセットした。倫の真っ黒で真っ直ぐな髪は肩より少しだけ長くカットされた。
男の名前は、藤原 麗二というらしかった。らしかったというのは、特に男から自己紹介を受けたわけでなくママにそっと聞いたからだ。「麗」という字が忘れたくて倫は男を藤原、もしくはあんたといつしか呼ぶようになって行くのだが…
買い物が済むと藤原は言った。
「さて、行くか。」外へ出ると午後4時を過ぎているというのに初夏の日差しはまだまぶしかった。店に横付けされている車は銀のフェラーリ。(車もイタリア製かよ)倫ははじめ思ったが、その男の助手席に乗っているのは、なかなか楽しかった。運転席の藤原を倫はそっと見た。良く見ると、なかなかのいい男に見えた。センスもいい。金持ちだ。まだ何も知らないけれど…この男と今夜は寝るんだ。倫は(いいひとかな…変態だったら面倒くさいな)そんなことを考えていた。藤原は倫を連れて、何軒かの、得体の知れない場所に連れ回した。外回り…といったところか、倫を自分の付き人だと紹介しては、次の場所に向かった。倫は途中でわかってきた。「藤原さん、さっきから行ってる所、モデル事務所?」藤原は運転席からこっちを見ずに「…そうだ。俺が持ってる事務所だ。」と言った。少しの沈黙が流れ「…身長176cmか…」「え?」倫は驚いて藤原の顔を見た。藤原は相変わらず真っ直ぐ向いたまま、「プロだからわかるさ、それくらい、」と言った。そして「ショーには低すぎるがスチールにはもってこいだ!」スチールとは雑誌モデルのことだった。「藤原さん、俺、モデルは無理です、」倫は即座に言った。「え?」藤原はくわえ煙草を落としそうになりながらチラと倫を見た。「俺…世間から逃げてるんで…すみません、役に立てなくて。夜にでもちゃんと話します」
男の名前は、藤原 麗二というらしかった。らしかったというのは、特に男から自己紹介を受けたわけでなくママにそっと聞いたからだ。「麗」という字が忘れたくて倫は男を藤原、もしくはあんたといつしか呼ぶようになって行くのだが…
買い物が済むと藤原は言った。
「さて、行くか。」外へ出ると午後4時を過ぎているというのに初夏の日差しはまだまぶしかった。店に横付けされている車は銀のフェラーリ。(車もイタリア製かよ)倫ははじめ思ったが、その男の助手席に乗っているのは、なかなか楽しかった。運転席の藤原を倫はそっと見た。良く見ると、なかなかのいい男に見えた。センスもいい。金持ちだ。まだ何も知らないけれど…この男と今夜は寝るんだ。倫は(いいひとかな…変態だったら面倒くさいな)そんなことを考えていた。藤原は倫を連れて、何軒かの、得体の知れない場所に連れ回した。外回り…といったところか、倫を自分の付き人だと紹介しては、次の場所に向かった。倫は途中でわかってきた。「藤原さん、さっきから行ってる所、モデル事務所?」藤原は運転席からこっちを見ずに「…そうだ。俺が持ってる事務所だ。」と言った。少しの沈黙が流れ「…身長176cmか…」「え?」倫は驚いて藤原の顔を見た。藤原は相変わらず真っ直ぐ向いたまま、「プロだからわかるさ、それくらい、」と言った。そして「ショーには低すぎるがスチールにはもってこいだ!」スチールとは雑誌モデルのことだった。「藤原さん、俺、モデルは無理です、」倫は即座に言った。「え?」藤原はくわえ煙草を落としそうになりながらチラと倫を見た。「俺…世間から逃げてるんで…すみません、役に立てなくて。夜にでもちゃんと話します」
