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たまゆらの棘

第2章 燃ゆる日々

その後、ふたりはスペイン料理店で食事をした。豊富な魚介類とオリーブオイルを使った新鮮でシンプルな味は倫に気に入った。藤原は白ワインを飲みながらウェイターに、倫のグラスにも注ぐように、指で合図した。倫は一口だけ口をつけた。「無理に飲まなくていいぞ。ただテーブルが寂しかったからだ。」藤原はオマール海老の殻を取りながら言った。あと、ふたりでいる時は敬語なんて使わなくていい、とも言った。「…美味しいです。全部。…藤原さん、毎日、こんな店…来てるんですか?」倫は尋ねた。藤原は「今日は記念日だからな。」そう言って、海老を口に入れて旨そうに吟味しているようだった。藤原は上機嫌に見えた。「記念日?」倫は不思議な表情で聞いた。「ゴールデン街でも有名な倫くんが俺の恋人になった日だ。抜けるように白い肌…吸い込まれるような黒い大きな瞳…唇と頬は薔薇色…その折れそうに細い腰は、皆を魅了する。自分がなんて言われているか、知ってるか?君は新宿の清楚な薔薇だった。」倫は顔を赤らめ、恥ずかしくなり、その瞳は潤んだ。
「…綺麗だよ、倫。俺の見立てで更に美しい男になった。」藤原は倫の姿を頭の先からテーブルの端ぎりぎりまで見て、確信するように満足げに言った。
「…すみません」倫はしおらしげに言った。「何が、すみませんだ?」「…いえ、こんなにしていただいて。」藤原は倫を見るとじっと見つめ、「嫌われないようにしないとな!」と、突然言い、快活に笑った。

藤原のマンションに着いた時には、すでに午後10時を過ぎていた。藤原のマンションの玄関アプローチは天井が高く、大きな幻想的なモダンアートが飾られていて、その絵画は倫になぜか回顧の懐かしさを感じさせた。16階。エレベーターをふたりは上がって行った。

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