
たまゆらの棘
第2章 燃ゆる日々
「倫!いつでも戻ってこい!…俺は…待ってる。…愛してる、倫!」ドアを閉める音にかき消されて藤原の声は悲しく遠のいた。ドアを閉めながら、藤原の遠のく声が、倫の耳に残った。「愛してる」と。16階のエレベーターを降りながら倫はチーコと自分を改めて重ねた。死ねるなら死にたい。倫は思った。
エレベーターを降りると例の大きな玄関アプローチの天井にかかったアートが目にはいった。なんてことはない、幻想的な大きな絵で、鮮やかなオレンジ色と薄い水色が溶け合っていた。これは…倫の脳裏に長いこと忘れていた記憶が蘇った。(…父さんと自転車で、かけた空だ…父さん…父さん…優しかった父さん…優しかった藤原…。そうだ。俺の方こそ藤原に、父さんを重ねていたのかもしれない…藤原…)倫はその絵に胸を締め付けられた。もう二度と、この回廊は通らないのだと。倫はその今、一瞬だけ素直になった。
「藤原…愛してた…」涙に潤んだ絵は更に胸に憂いを増した。
エレベーターを降りると例の大きな玄関アプローチの天井にかかったアートが目にはいった。なんてことはない、幻想的な大きな絵で、鮮やかなオレンジ色と薄い水色が溶け合っていた。これは…倫の脳裏に長いこと忘れていた記憶が蘇った。(…父さんと自転車で、かけた空だ…父さん…父さん…優しかった父さん…優しかった藤原…。そうだ。俺の方こそ藤原に、父さんを重ねていたのかもしれない…藤原…)倫はその絵に胸を締め付けられた。もう二度と、この回廊は通らないのだと。倫はその今、一瞬だけ素直になった。
「藤原…愛してた…」涙に潤んだ絵は更に胸に憂いを増した。
