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それでも恋するドM娘

第8章 代用品

千紗の声が全く聞こえていないかのように富士見は千紗の方を一切見ようともせず、真剣な表情を崩さないまま石膏のデッサンを続けていた。

シュッシュッシュッ……

鉛筆が紙に擦れる音だけが静かに美術室に響く。

厳(おごそ)かといっても過言ではない空気に千紗は思わず息をすることさえ躊躇われてしまう。

そっと音を立てないように千紗はあとづさりながら美術室を出ようとした。


「もう終わるから。ちょっと待ってて」

富士見はちらっとも千紗のほうに視線を移さないまま千紗に話しかけてくる。

「はい完成」

富士見はスケッチブックと鉛筆をぽんと机に放って大きく伸びをした。

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