テキストサイズ

恋のかたち

第8章 パーティー

「優愛」
見慣れない正装姿で、初めて聞く優しさに溢れた声で名前を呼ばれ微笑みかけてきた秋豊

優愛は、突然頭を殴られたような衝撃を受けた
「だっ・・誰?」
はははっと軽い笑いを見せた秋豊
「やだなぁ、俺じゃないか・・毎日会ってるのに冗談がきついなぁ~」
変わらない笑顔で話しかけてくる秋豊に開いた口が塞がらない優愛

どんどん近づいてくる秋豊に、半歩下がって警戒する

耳元に屈むように口を寄せて来た秋豊
「馬子にも衣装だな。」
聞き慣れたトーンの低い声で囁かれ、優愛は、顔を上げた

余所行き顔の優しい微笑みを称えた秋豊の姿にたじろぎながら正真正銘の本物だと確信できた

「未成年は飲食禁止」と唇に人差し指を当てながら言ってくる

「わっわかってますよ!」
動揺を隠せない優愛だったが、秋豊は、また別の高貴な雰囲気を放つ中年男性に呼ばれ

優愛に、またなと小声で告げると、あの作り物の笑顔で行ってしまった

優愛は、ため息を吐く事で気持ちを落ち着かせた

友好的な普段見せない笑顔の秋豊を、少し眺めて時間つぶしに料理がずらりと並んだテーブルへ移動した

あまりお腹は空いてなく、フルーツをお皿に適当に取り分けると一口パクッと口に入れた

程よい酸味が優愛の緊張を少し楽にしてくれる気がした

後ろから秋豊の声がするも、あまりに優しい声がなれず、背中がぞくっとする

振り返った優愛の目に、先ほど秋豊を呼んだ中年男性が一緒に立っていた

「紹介するよ」
と、偽物の笑顔を振りまく秋豊に、今食べたイチゴを吐き出すかと思った

秋豊は、仲介に立ち海外貿易を主に世界中の品を交易している社長と紹介してくれ、お互い当たり障り無い軽い挨拶と握手を交わした

次に保険会社、外資系企業の社長、テレビで見たことのある国会議員数名を次々紹介され、同様の対応を繰り返し

秋豊のような作り笑いで、頬の筋肉が硬直し戻らない状態だった

やっと全ての挨拶が済むと、どっと疲労感が襲ってきた


「疲れたろ。会場から出てゆっくり座っててもいいぞ」
こくんと頷いた優愛
「後で行くからウロウロするなよ」
耳元で言われ、一瞬ピクッとしてしまった

優愛はまた頷くと、会場を後にした

ストーリーメニュー

TOPTOPへ