激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第7章 第二話・其の参
実をいえば、美空は知らぬことではあるが、宥松院が孝俊の側女にと考えているお葉は、ふた月前、美空が廊下で奥女中の一団を引き連れた唐橋とすれ違った際、その一団の中にいた娘であった。あの時、美空の打掛の裾を掴んで転ばせようとした不届きな女の傍らにいた、あの娘である。周りの朋輩が平伏している中、お葉だけが背筋を伸ばし、心もち顎を持ち上げ美空を真っすぐに見上げていた。その様は、お葉という娘の傲慢さを表しているかのようでもある。
智島は、あの生意気で身の程知らずの奥女中が瀬尾安兵衞の娘であると知っている。
唐橋が美空を掬い上げるように上目遣いに見上げる。美人だと評判の娘だが、ごご簾中を真っ向から挑むように見据えるとは、どうやら、あまり利口な女ではないようだとその人柄を見ていた。
もしかしたら、既にあの時、お葉は宥松院から側室候補と目されていることを聞かされていたのかもしれない。それゆえ、ご簾中に向かって、あれだけ挑戦的な態度を取ったのだろう。自分の後ろ盾として宥松院がいると思えばこその強気な態度だったのだともいえる。
が、そのようなことは、敢えて美空の耳に入れる必要もなく、智島一人の胸に秘めておけば良いことだ。
「お義母上さまがそこまでお考え下さり、お気遣い下さるとは、ありがきこと。されど、そのような話は私の一存でお受けできるものではないと、そのようにお伝えして欲しい」
美空からの無難な応えに、唐橋は食い下がる。
「さればこそ、宥松院さまは、まず殿にその件について言上する前に、お方さまのご意向をお訪ねになっておられるのでございます。やはり、幾らお家のためとはいえ、女にとっては大切なことゆえと、側室献上の儀は真っ先にご簾中さまのお気持ちを確かめた上で進めるようにとの真に細やかな母君さまとしてのお心配りにございます」
孝俊に側室を勧めるということは、結局、正室である美空の立場を脅かすことになるというのに、暗にありがたく思えといわんばかりの言いぐさだ。
もう智島などは顔を怒りに染めて、唐橋を睨みつけている。
智島は、あの生意気で身の程知らずの奥女中が瀬尾安兵衞の娘であると知っている。
唐橋が美空を掬い上げるように上目遣いに見上げる。美人だと評判の娘だが、ごご簾中を真っ向から挑むように見据えるとは、どうやら、あまり利口な女ではないようだとその人柄を見ていた。
もしかしたら、既にあの時、お葉は宥松院から側室候補と目されていることを聞かされていたのかもしれない。それゆえ、ご簾中に向かって、あれだけ挑戦的な態度を取ったのだろう。自分の後ろ盾として宥松院がいると思えばこその強気な態度だったのだともいえる。
が、そのようなことは、敢えて美空の耳に入れる必要もなく、智島一人の胸に秘めておけば良いことだ。
「お義母上さまがそこまでお考え下さり、お気遣い下さるとは、ありがきこと。されど、そのような話は私の一存でお受けできるものではないと、そのようにお伝えして欲しい」
美空からの無難な応えに、唐橋は食い下がる。
「さればこそ、宥松院さまは、まず殿にその件について言上する前に、お方さまのご意向をお訪ねになっておられるのでございます。やはり、幾らお家のためとはいえ、女にとっては大切なことゆえと、側室献上の儀は真っ先にご簾中さまのお気持ちを確かめた上で進めるようにとの真に細やかな母君さまとしてのお心配りにございます」
孝俊に側室を勧めるということは、結局、正室である美空の立場を脅かすことになるというのに、暗にありがたく思えといわんばかりの言いぐさだ。
もう智島などは顔を怒りに染めて、唐橋を睨みつけている。