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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第7章 第二話・其の参

智島が憤懣やることなしといった様子で言う。
「そなたの申すとおりであるとは思いますが、私がいまだに身ごもっておらぬというのは、あちらにとっては殿にご側室をお勧めする恰好の理由にはなりましょう」
 遠くを見るような眼で淡々と語る女主人に、智島はたまりかねて叫ぶように言った。
「それでは、ご簾中さまは平気でいらっしゃるというのでございますか? 殿がご側室をお持ちになっても、それで構わぬと―?」
 刹那、庭に向けられた美空の眼が揺れた。
 紅く染め上がった紅葉が秋の陽光に照り映えている。風もないのに、赤児の手のひらのような愛らしき葉がはらはらと舞っていた。
 美空につられるようにして庭を見た智島は、女主人が束の間見せたあまりにも淋しげな表情に胸を衝かれた。
「本音を申せば、平気でいられるはずがない。されど、それが武家の習いというのであろう。お家のために、殿のおんためには、いちばん良き道なのであろう? だとすれば、私の苦しみなぞ、ちっぽけなもの。智島、私は殿にお従いしてここに参りし折、生まれ変わるつもりで来た。殿のお側にいつまでもおられるのであれば、何でもしよう、殿のおんためなら、私にできることであれば何を犠牲にしても厭わぬと思うて参ったのです。本音をひたすら抑え、建て前で生きてゆかねばならぬのが武家の妻としての心得であらば、私は歓んでその道を選びます」
「ご簾中さま―」
 智島はもう、何も言えなかった。
 言えるはずはない。ここまでの悲壮な決意を持つ美空に、誰が何を言うこともできないだろう。
 美空はゆるりと視線を巡らし、再び庭を眺めた。
 庭の片隅に烏瓜(からすうり)がなっている。烏瓜はウリ科の多年生蔓草で、山地では普通に自生している。花冠は白色で、糸状に細かく裂ける。晩秋、大きな赤色の実が熟し、食用や薬用と多岐に渡って利用できることで知られている。
 秋もたけなわの紅に染まった庭の中で、赤色の実が秋の風にかすかに揺れている。その光景が何故か、無性に寂寥感をかきたてる。赤色の実をじっと見つめながら、熱い雫が頬をころがり落ちるのを感じていた。

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