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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第7章 第二話・其の参

 そう、たった今、智島にも言ったように、ここに来る時、覚悟したはずだ。小間物売りの妻としてではなく、尾張藩主徳川孝俊の妻として生きる道を選んだ時、いずれ、このような日が来ることは漠然とではあるけれど、予想はしていた。武家と町家では、生活も考え方も根本から違う。ましてや、美空はその日を暮らしてゆくのがやっとの長屋育ちだった。
 自らが望んだ運命に今更、あがいてみたところで何としよう。すべては孝俊のために。
 何としてでも耐えて見せよう。心の哀しみも涙もひた隠し、微笑んで見せよう。
 改めて、そう決意する。
 秋の陽は美空の心なぞ知らぬげに穏やかに庭を照らしている。降り注ぐ秋の陽差しに眼を細めながら、美空は一人、静かに泣いていた。

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